オススメの一冊、『海底撈 知られざる中国巨大外食企業の素顔』
「海底撈」という名前を聞いたことがあるだろうか。中国発の火鍋専門店で、本国である中国のほか、アジアやヨーロッパ、オーストラリアなどにも店舗を展開しており、実は日本でも新宿などに店舗を出店している。日本での知名度はそれほど高くないが、同社の時価総額のランクは世界の外食産業の中でもマクドナルド、スターバックスに次ぐ第3位という超巨大企業だ。本書は、そんな海底撈とパナソニックの協業事業の立ち上げに参画し、両社の合弁企業の初代総経理を務めた山下純氏が、海底撈の全貌を記した一冊である。
「変態級接客サービス」──。中国では、海底撈の顧客至上主義を徹底したサービスレベルの高さに敬意を表してこのように呼ばれている。長い待ち時間にはネイルサービスや靴磨き、フルーツの提供などを実施するほか、席に着いてからはカンフーダンスを舞いながら火鍋用の麺をつくる「カンフー麺」など、エンターテインメント性の高いパフォーマンスも行う。店内にはキッズルームもあり、小さい子供の面倒を見てくれるサービスまで備える。飲食店としては過剰とも思えるサービスを提供することで、海底撈は飲食店のサービスレベルが高くない中国で圧倒的な差別化を実現していった。
海底撈では顧客だけでなく従業員の満足度も高い水準にある。格差社会の中国では、学歴がなく農村出身である若者が就ける好条件の仕事は限られている。そうした若者にとって、海底撈は「チャイナドリーム」をつかむことができる数少ない企業の1つだ。入社時から一般的な大卒新入社員と遜色ない給与がもらえるほか、店長になり優秀な成績を収めれば、自分の弟子をのれん分けさせ、その店舗の売上から上納金を得ることもできる。また、従業員の両親には「両親手当」を支給するなど、家族を重視する傾向が強い中国で、海底撈は従業員だけでなくその両親まで自社の味方に引き込んでいる。
本書では、このような海底撈の独自の取り組みが、同社創業者である張勇氏を間近で見てきた筆者によって詳細に語られている。本書を読めば、火鍋業界のレッドオーシャンを勝ち抜いた海底撈の強さの秘密が見えてくるだろう。