大手百貨店初!大丸東京店に登場した売らない売場「明日見世」が担う新たな百貨店モデルとは
「商品を売らない売場」の意外なメリット
明日見世は物販機能がないので、従来の百貨店の収益モデルである売上高に応じた歩合や販売手数料が入らない。その代わりに、一区画単位で出展料(非公表)という安定収入を得ることができる。「せっかく顧客が売場に集まっているのに、商品を売らないのはもったいない」と思うかもしれないが、実は、“商品を売らない売場”にも、さまざまなメリットがある。
「ショールームなら、スタッフは接客サービスに専念できるし、お客さまにとっても“買わされる心配”がないので、商品をじっくり選べる」(大西氏)。
また、在庫管理や会計処理などが不要なので、スペースを効率的に活用でき、集客力をアップさせることも容易だ。商品が欲しくなったら、その場でスマートフォンを操作し、ブランドの直販サイトから購入する若年層も多い。手荷物が増えないので、そのほうが便利というわけだ。もっとも、「化粧品などの小物の場合、その場で買って持ち帰り、すぐに試したいという中高年のお客さまも多いので、店内での自動販売機の設置なども検討している」(同)とのことだ。
明日見世には販売員ならぬ、商品やブランドについて顧客に紹介する「アンバサダー」という専属スタッフが、5名配属されている。20~30代の同社社員(1名は男性)で、ギンザシックスのセレクトショップなどで販売実績を積んできた精鋭だ。
「出展しているメーカーさんからは、ブランドのことをよく理解し、上手に説明してもらえると評価が高い。例えば、関西中心に展開していたブランドで、東京方面からの注文が急増したという反響があった。2週間単位で、お客さまの生の声をメーカーさんにフィードバックしているが、ある化粧品ブランドでは、お客さまの要望がきっかけで、トラベルキットの開発につながったというケースも見られた」(同)。
一方で、顧客からも「ブランドのことがよくわかった」などと、好評だという。来場者へのアンケートによれば、約95%が「やや満足」「満足」と回答している。
明日見世にはコミュニケーションスペースもあって、出展メーカーから商品開発担当者などを招いて、体験会などのイベントを開催することもある。「ブランドの固定ファンのほか、新規参加のお客さまもいらっしゃる。リアルのお客さま同士が出会って、新しいコミュニティができることもある」(同)。
また、NTTドコモと共同で顔認証システムをスペース内に導入、AIによる顧客行動分析の実証実験にも取り組んでいる。マスクをしていても性別や年齢などが判別できる精度があり、レイアウトや売場運営の改善、顧客満足度の向上などにつなげていく。