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意外な大手が上位に!コロナ禍で時価総額を増やした小売企業、減らした小売企業ランキング

2021年もあっという間に12月末を迎えました。
新型コロナウイルスに感染された方、お亡くなりになった方、医療逼迫でタイムリーな医療を受けられずお亡くなりになった方および具合を悪くされた方に対して、こころよりお悔やみとお見舞いを申し上げます。
年末でもありますので、2020年末に続き、小売企業の株式時価総額の動向を振り返り、今後に向けた洞察を行いたいと思います。

コロナ禍直前からの株式時価総額の増減を見る

 今回は、過去1年間の増減ではなく、コロナ禍入り直前の「2019年12月末から2021年12月24日の終値まで」の主要な上場小売企業の株式時価総額の増減を検証したいと思います。
 株価の騰落率ではなく、株式時価総額の金額増減であることをご確認ください。なお、時価総額増減額は直近の株式時価総額と当該期間の株価騰落率から算出した概算値であることをお断りしておきます。

株式時価総額を増やした企業

 はじめに、株式時価総額を1000億円以上増やした企業をご紹介します(表中のHD=ホールディングス)。

企業名 増加額
1 セブン&アイHD +8435億円
2 ZOZO +4602億円
3 イオン +3943億円
4 MonotaRO +2998億円
5 ファーストリテイリング +2696億円
6 FOOD & LIFE COMPANIES +2327億円
7 コスモス薬品 +2256億円
8 ニトリHD +1064億円

 カテゴリートップのEコマースプラットフォーマーであるZOZOMonotaROが順調にランクインし、SPA(製造小売業)の代表格であるファーストリテイリングとニトリホールディングスもステイホームの恩恵もあって名を連ねています。さらに、外食受難のなか2021年9月決算で上半期も下半期も既存店売上高が対前年同期比プラスになったFOOD & LIFE COMPANIES(旧スシロー)と、東名阪へ進出を進めるコスモス薬品も顔ぶれに加わっています。

 そして、筆者にはやや意外な感じがするのですが、総合小売のセブン&アイ・ホールディングスとイオンも揃ってランクインしました。

  参考までに各社の直近の四半期決算(3ヶ月)の経常利益ないし税引前利益が対前年同期比、および対前々年同期の双方を上回ったのがZOZOMonotaRO、ファーストリテイリング、FOOD & LIFE COMPANIESの4社。対前年同期比減益だが、対前々年同期では増益なのがコスモス薬品、ニトリホールディングス。いずれに対しても減益だったのがセブン&アイ・ホールディングス、イオンでした。

 

株式時価総額を減らした企業

 

 次に、株式時価総額を1000億円以上減らした企業をご紹介します。

企業名 減少額
1 ワークマン ▲3957億円
2 良品計画 ▲2251億円
3 エービーシー・マート ▲2032億円
4 ヤマダHD ▲1775億円
5 ツルハHD ▲1624億円
6 J. フロント リテイリング ▲1508億円
7 すかいらーくHD ▲1345億円
8 パン・パシフィック・インターナショナルHD ▲1314億円
9 サンドラッグ ▲1198億円
10 丸井グループ ▲1103億円

  これら各社の直近の四半期決算(3ヶ月)の経常利益ないし税引前利益が対前年同期比、および対前々年同期の双方を上回ったのがワークマン、丸井グループ。対前年同期比増益だが、対前々年同期では減益なのが良品計画、すかいらーくホールディングス。

 いずれに対しても減益だったのがエービーシー・マート、ヤマダホールディングス、ツルハホールディングス、J. フロント リテイリング、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス、サンドラッグでした。

  いかがでしたでしょうか。

 この二つのリストを眺めると、一部の例外を除き、対前年同期比と対前々年同期比のいずれに対しても増益である企業に高評価を、減益である企業に低評価を付していることがわかります。さらに、コロナ禍前の対前々年同期比と比較して増益になった企業に高評価、減益の企業に低評価が付されている傾向も観察されます。新型コロナウイルスに対するワクチンの供給拡大と治療薬の開発進捗が進んでいることから、株式市場がアフターコロナ禍における企業の成長性に目を向けているはずですので、こうした評価にも納得がいきます。

2019年実績を越えている企業のポイントとは

  次に、2019年超えを達成している企業を俯瞰しながら、筆者なりにポイントを洗い出してみたいと思います。

  まず、Eコマースプラットフォーマーにおいては、カテゴリートップの座にあること、新規顧客の獲得が無理なく進んでいること、既存顧客のライフタイムバリュー最大化のためユーザー経験の最適化に向けた投資に積極的であること、既存顧客あたり利益最大化のために品揃え強化・提案機能の最適化・広告などの副収入の確保にぬかりがないことが鍵になりそうです(これらのポイントは実店舗小売業にもそのまま当てはまる基本的な内容ですが)。ZOZO、MonotaROは概ねこれらを充足しているからこそ、連続増益基調が続いているのだと思います。

  次に、いわゆるSPA企業ですが、①国内でSPAの事業モデルが確立され洗練されていること、②そのSPAモデルを調達元である川上と販路である川下のいずれにおいても海外展開し外需を成長エンジンとして取り込んでいること、そして③顧客接点から商品開発およびサプライチェーン管理までデジタル化によって一気通貫する体制づくりが進んでいることがポイントになるでしょう。筆者はファーストリテイリングが一歩進んでいると考えていますが、ニトリホールディングスも同じ方向に舵を切っていると見ています。ファーストリテイリングは以前から自社を「情報製造小売業」と標榜してきましたが、ニトリホールディングスも「製造物流IT小売業」を標榜していることが、ポストSPAの方向性を示唆していると考えます。ニトリホールディングスの大きな課題は海外事業のプレゼンスアップにありそうです。

  なお、増加リストにセブン&アイ・ホールディングスが入っています。これを業績だけでは説明が難しいことは既に述べた通りですが、要因を探るとすれば二つ挙げられます。一つ目は、比較時期である2019年が7pay(セブンペイ)問題や人手不足によるコンビニオーナー収益悪化など同社の事業基盤に対する投資家の目が厳しい時期だったことです。二つ目は、米国コンビニ事業に経営資源を投下し、国内コンビニ事業(とりわけ食品)に関する知見を移植する経営判断が評価された点です。結果として、外科的手法ではありませんがコングロマリット色が薄まることが歓迎されているのではないでしょうか。

  また、下落リストに載った良品計画も上記のポストSPA路線を歩んでおり、チェーンストアオペレーションから個店主義への転換についての不透明感が払拭されれば評価が持ちなおす可能性があると思います。

  他の下落リストの企業を眺めると、PBよりもナショナルブランド主力の企業が多いと思います。取り組むべき本質的な課題はSPAと変わらないはずですが、付け加える点があるとすれば、店舗のスクラップ&ビルド、商品構成の見直しになるでしょう。ナショナルブランド抜きでは運営が難しいのであれば、業界集約を進めて規模を高め利益率を確保する動きにつながらざるをえなくなるのではないでしょうか。

コロナ禍の体験は少子高齢化社会の「予行演習」

  振り返れば、コロナ禍の体験は、今後の日本の少子高齢化社会の予行演習であったととらえることができそうです。10年後を想像してみると、人口ピラミッドのコブのひとつであるアクティブシニア層(70-74歳)の外出・消費が減少し、もう一つのコブであるアクティブシニア層の子供世代(45-49歳)は収入が先細り、現在の若年労働者は人数の制約を生産性の向上でカバーすることが必至になり、このため業務の合理化、リモートワーク定着が進むはずです。今回のコロナ禍は私たちに10年後の社会構造を垣間見させてくれたと言えるのではないでしょうか。

 予行演習を終えた今、各社の課題は幸いにも明確になりました。あとは有効な戦略を携えて、いち早く2019年の収益を超えて行くことだと思います。日本企業はやるべきことが定まればそれを着実に実行することが得意なはずです。2022年は小売各社が積極的に事業展開を進めていく年になると確信しています。

  1年間、大変お世話になりました。

  読者の皆様にとって2022年がさらに素晴らしい年になることを心よりお祈り申し上げます。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師