アングル:コロナ禍の新卒内定率、5年ぶり低水準 企業打撃で
[東京 31日 ロイター] – 2021年春入社の新卒内定率が振るわない。就職氷河期やリーマン危機後の水準は上回っているが、これまでの「売り手市場」に一服感が漂う。コロナ禍で打撃を受けた航空業界では新規採用を見送る企業も出ており、秋採用などで挽回がなければ5年ぶりの低水準にとどまりそうだ。新卒採用の低迷が長引き就職氷河期の再来となれば、経済への影響も大きくなる可能性があるが、専門家からは、その可能性は低いとの指摘も出ている。
秋にかける学生も
本来なら4月に内定が出る予定だったが、時間がかかった――。6月初旬にアパレルメーカーの内定を得た愛知県在住の山田那奈さん(大学4年)は、こう振り返る。
政府が4月に緊急事態宣言を発令し、就職情報大手のリクルートキャリアによると、約8割の企業が5月にかけ採用プロセスの見直しを迫られた。昨年秋に内定先のインターンシップに参加した山田さんは12月頃に1次面接を受け、その後順調に2次、3次面接へと進んでいたが、緊急事態宣言が出され、一時的に就職活動の中断を余儀なくされた。
2月上旬に映像系デザイン会社の内定を決めていた石原直樹さん(新卒、24歳)は、2月下旬に内定が取り消しとなった。会社側からは「新型コロナウイルスの影響で採用が難しくなり、内定を取り消す」と説明があったという。3月中旬、名古屋市にある万松寺が内定が取り消された学生を臨時採用するという話を知り、面接を受けて就職が決まった。
埼玉県在住の吉永一輝さん(大学4年)は、まだ内定を得ていない。 吉永さんも、新型コロナの影響で3月頃から6月まで活動を中断。再開後は専門商社や物流会社などの選考を受けてきたが、秋採用で別の業界を受ける予定だという。
就職情報大手ディスコによると、8月1日時点の内定率は83.7%と、前年同期の88.2%を4.5ポイント下回る。
10月1日時点での内定率が63.6―65.0%ほどで推移した2000年前後の就職氷河期や、一時的に70%台に突入したリーマン危機後の水準ほどではないが、「リーマン危機後の回復期から続いてきた高水準の採用が一服するのは間違いない」と、ディスコの武井房子上席研究員は言う。
コロナで採用見送り
ディスコが7月に行った調査では21年卒業の新卒採用を前年より「増やす」と回答した企業が全体の15.0%だったのに対し、「減らす」とする企業が27.6%に上った。 「4―6月期決算で大手企業の約4割が赤字に陥り、今後、新卒採用を減らす企業も出てくる」(法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授)との声もある。実際にコロナで需要が激減した日本航空(JAL)やANAホールディングスは21年春入社の新卒採用の中止を決定した。
ディスコによると、新卒内定率は17年卒以降4年連続で90%台を維持してきた。今年は、前年の90.5%に届かないだけでなく「90%を割り込む可能性もある」と、前出の武井氏は指摘する。
広がる通年採用、秋採用は狭き門
一方、ここ数年、企業からは通年採用など、新たな動きが出ている。 ソフトバンクは15年に「ユニバーサル採用」と称し、入社時期も含め柔軟な新卒採用に踏み切った。
16年10月に新卒一括採用を廃止したヤフーは新卒や既卒、第2新卒などにかかわらず30歳以下を対象とする「ポテンシャル採用」を導入し、通年採用を続けている。ユニクロを展開するファーストリテイリングも通年採用を実施している。
前出の吉永さんは「秋採用の募集はすでに始まっているが、枠は少ない。焦る気持ちもあるが、興味や関心を活かせる分野で面接を受けられるよう準備を進めたい」という。
ディスコが19年5月に主要企業1097社から回答を得た調査によると、選考時期の通年化を採用している企業は20%、「今後取り組みたい」と回答した企業は42.3%に上った。企業側も選考時期の通年化を進めるが、前出の武井氏は「選考時期の通年化が進んで秋以降に採用活動が行われても、企業側と学生側のマッチングがきちんと行われなければ、内定率を押し上げる要因にはなりにくい」と指摘する。
就職氷河期の再現は回避か
コロナによる経済への影響が回復するのは数年後という見方もある。雇用への影響は経済への影響に遅行するので、内定率はしばらく低迷する可能性もある。
日本総研の山田久副理事長は「企業収益の不透明感が強いなかで、新卒採用を絞る動きが出てくる」と指摘する一方、就職氷河期に再び陥る可能性は低いと予測する。就職氷河期の頃と異なり、大手企業では内部留保があることに加え、新卒採用をストップさせることによるデメリットに企業側が気付いているからだという。だが、「先行きがなかなか見通せない中で、大手企業でも新卒採用を絞る傾向は来年も続くだろう」という。