アングル:「五輪特需」失ったホテル業界、新型コロナで存亡の危機
[大阪市 25日 ロイター] – 「大阪コロナホテル」はここ数週間、気味が悪いほど静かで空き室だらけだ。
「名前に関しては非常に残念なところですよね」。営業担当の藤井康平さんは、がらんとしたロビーのカフェでため息をついた。
例年、春は企業が新入社員を迎え、会議室やバンケットルームを借りてセミナーや歓迎会を開くため、最も忙しい時期だという。
大阪市の新大阪駅から徒歩2分という好立地にもかかわらず、今年の予約は昨年の3分の1にまで落ち込んだ。今夏に予定されていた東京五輪・パラリンピックの延期も観光に依存する中小企業、そして日本経済にとって壊滅的な打撃になりそうだ。
新型コロナウイルスの感染拡大で日本への旅行者が減り、全国で経済活動が低迷している。利用客の大幅な減少に直面しているのは、不運な名前のコロナホテルだけではない。
建設ブームに沸いていたホテル業界に対しては、コロナウイルスの感染が広がる前からその持続性を疑問視する声が出ていた。
「開発が進み、とてつもない数の客室がここ数年間で増えている」と、藤井さんは話す。「運営が持たないホテルが必ず出てくると思う」
7年前に就任した安倍晋三首相はアベノミクスの柱の1つに観光を掲げ、2020年までに年間4000万人、2030年までに6000万人の訪日客を誘致する野心的な目標を打ち出した。
その中で東京五輪の準備を積極的に進め、カジノを合法化し、ホテル開発などに外資を誘致した。昨年は3190万人の外国人が日本を訪れ、4兆8100億円を支出していった。
しかし、新型コロナウイルスが195カ国に広がり、世界で1万6000人以上が死亡、そして五輪の開催延期が決まった今、その目標は達成不可能になりつつある。
2月の訪日外国人客数は前年同月比60%近く減少し、すでにアナリストらは日本の観光産業にとって壊滅的な年になると予想している。
みずほ総合研究所の宮嶋貴之・主任エコノミストは 、2020年には3400万人の外国人観光客が日本を訪れると予測していたが、もはやそれは無理だと指摘する。
ホテル資産に焦点を当てた不動産信託、Invincible Investment Corp. 、いちごホテルリート 、ジャパン・ホテル・リート などは、これまでに60%近く下落しており、東京証券取引所のREIT指数の31%より下落幅が大きい。
空き室だらけ、通りは閑散
外国人観光客、とりわけ中国人への依存度を高めていた大阪のような都市にとって、コロナウイルスの感染拡大の打撃は大きく、地元の雇用や中小企業の経営に対する影響は深刻だ。
世界的な不動産会社ジョーンズ・ラング・ラサールによると、昨年、東京圏の商業用不動産投資が減少する一方、大阪圏は着実に増加していた。
大阪は不動産ブームを背景に、ホテルの客室数が2015年からの3年間で2万1000も増加した。今やその多くは空室だらけ。最近開業した「ホテルビスタ大阪なんば」 もその1つだ。
121部屋の同ホテルは、安倍政権が全国の学校に休校を要請した2月27日、大阪の道頓堀にオープンした。支配人の猪川久男さんは、客のいないロビーの壁に描かれた金色の巨大なトラの前に座り、今のタイミングで海外旅行客を呼び込もうとしても意味がないと話す。
「とりあえず料金をコントロールして、国内の観光なり出張のお客さんに少しでも来てもらいたい」と、猪川さんは語る。
ただ、大阪でも新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)が確認されており、新たな懸念材料となっている。
全国約250のホテルが加盟する全日本シティホテル連盟は、夏まで新型コロナの流行が続くと、年内にかなりの数のホテルが倒産すると予測する。清水嗣能会長は「国が観光立国を掲げる中でホテルを建ててきたが、真っ先にあおりを受けている。人の動きが止まり、どうしてくれるのか、という思いはある」と話す。
観光庁によると、訪日外国人客と日本人の国内外旅行を合わせた「旅行・観光消費」は、2017年に472万人の雇用を誘発。経済効果は国内総生産(GDP)の5%に当たる27兆円だった。
業界団体は、需要の大幅減少を乗り切るために公的支援を求めている。
ほぼ全滅に近い
人気の観光地・京都では、外国人客の減少が昔ながらの旅館の存続を脅かしている。錦市場近くにある松井旅館の4代目若女将、松井もも香さんはここ数週間、キャンセルの電話対応に追われた。例年、桜が満開となる春は最も忙しい時期だ。
若女将によると、数年前から予約していた団体客のほとんどが、新型コロナウイルスのためにキャンセルあるいは延期してきたという。キャンセル料を払ってもらえたのは、ほんの数件だった。
「今のままの状況が夏以降も続くと厳しい。夏までが限界だと思う」と、松井さんは話す。約100人の従業員の多くは自宅待機をしている。
全国2500の中小旅館・ホテルが加盟する日本旅館協会によると、東京五輪を控え、加盟社の多くが最近の観光ブームで得た収入を改装費用に当ててきた。
今やその多くがキャンセルの嵐に見舞われ、倒産を避けるため金融機関と交渉していると、日本旅館協会の会長で、京都の松井旅館から少し離れたところで旅館「こうろ」を経営する北原茂樹さんは話す。
「3月は何割(客が)減ったというよりも、ほぼ全滅に近い」と、北原さんは語る。