「デジタル化と小売業の未来」#3 消費者は来店前に買うものを決めている
資本力でのシェア獲得は困難に
その後、インターネットの普及に伴いZMOTの時代が到来しました。当たり前のように、多くの人が店舗に行く前にネットで事前に調べています。来店前にすでに購入したい商品が決まっているため、検索段階での情報戦を制することが必要になったというのがZMOTの大枠の考え方です。
検索において多くの人が閲覧しているのが商品レビューです。消費者は「楽天」や「アマゾン」といったECサイトのレビューや価格を見てから来店するため、店舗での価格が高ければ購入をやめます。つまり、消費者はどの商品を買うかだけでなく、どのチャネルで買うべきなのかも検索で判断するようになっているのです。
従来、資本力さえあればテレビCMを投下し、店舗で目立つ売場に商品を置いてもらうことで、シンプルに売上を伸ばすことができました。しかし、現在はあらかじめ欲しい商品が具体的に決まっている状態で来店するため、その場所を店員に聞くだけで、他の売場を見ることはありません。結果として、資本力でシェアを獲得することが難しくなってきているのです。
デジタル発のブランドも増加
最近では、最初にリアル店舗ではなくネットで売上を確保する事例も増えています。シャンプーやトリートメントのブランド「ボタニスト」などを開発しているI-ne(アイエヌイー:大阪府/大西洋平社長)は、楽天から商品を売り始め、認知と評価を高めることで今ではかなりの売上を獲得しています。
ボタニストのように、デジタル発でブランドを大きく育てる会社は増えており、一定の認知度を得てから店頭で販売する手法で成功する事例も多くなっています。このようなブランドはすでにネットで一定の評価を受けているため、リアル店舗でも売れます。
ECの利用率が高まっているなか、商品が店頭に置いてあっても実際に顧客が触れる機会は少なくなりました。テレビCMも見ない人も増えており、従来型のマーケティングでは顧客に商品を認知させることはますます難しくなっています。
ZMOTの考え方は、小売業界に大きなインパクトを与えています。消費者の購買行動が変化する時代では、小売にも大きな変化が求められているのです。
プロフィール
望月智之(もちづき・ともゆき)
1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。
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