UTme!が引き金! 誰でも商品化できる時代、弱いブランドはすべて個人に駆逐される
卓越した個人の力が、日本ブランドを打ち負かすようになる
消費者自身がテレビスターになり、作家になり、あるいは、デザイナーになる仕組みを提供する。冒頭に上げたように、ニュースや映像はすでにそうなっているし、アルバム、年賀状は言わずもがな、その他、音楽だって音符も読めない私でも作曲できる時代である。もはや、アプリで自作のものを作るのはもはや常識だし、大量生産、大量消費の時代はすでに終わっている。集団の力以上にデジタル武装した「卓越した個人の力」が、ブランド化を確立していない企業を打ち負かす時代が来くるのはそう遠くない未来だ。
まだまだ足りない部分もあるが、私はこのUTme!にその将来を感じている。少なくとも、「来年はこのトレンドが来る」など、何十年も占い師のようなことを繰り返し、在庫の山となって業績を悪化させてきたアパレルの歴史を見てきた私からいえば、もっと抜本的にやり方そのものを変える必要があると思うのだ。今はまだTシャツやパーカーにプリントするだけの簡単なもので、文字やデザインも単純なものしかできないが、スーツ、スニーカー、ニット製品など、世の中はカスタム・オーダーのオンパレードで、こうした技術を開放し、消費者に優しいUI (ユーザー・インターフェイス。アプリの操作性)を工夫すれば、今の技術の組み合わせで、相当難しいデザインの服のアプリ化などなんら問題ないだろう。私は、確立されたスーパーブランドに勝つ方法は、これしかないと思っている。
そうしたなか、
私には、昨今のデジタル偏重主義には、「その先」が見えないことがフラストレーションだった。単なる生産性の向上によって、残業が2時間減る程度だと思ったら大間違いだ。デジタル化の本当の影響力は、企業から半数以上の、いや、下手をしたら、ほとんどの人間を組織から追い出すほどの破壊力をもっている。逆に言えば、こうした明確なヴィジョン。すなわち、デジタル化を推進することで何を成し遂げたいのかという議論こそ、今こそ煮詰めるべきであり、UTme!は、極めてパーソナルで恐縮だが、私の一つのヴィジョンであるということである。
間違って欲しくないことは、この私のヴィジョンがビジネスとして成立するかどうかよりも、ヴィジョンそのものを持っているのかということが経営に問われているということだ。
(編集部より 本連載では、次回から3回連続で、「アパレル業界のフィクサー、商社」をお届けします。その1回目は週明け火曜日に公開、乞うご期待下さい)
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)