酒井真弓のDXトレンド最前線、ベイシアグループを変えた人的資本経営
※編集部注:取材は2024年1月。『ダイヤモンド・ホームセンター2024年2月15日号』に掲載、肩書・役職等は取材時のままとなっております。
近年、流通小売業に限らず、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや社内文化の変革に成功している企業が増えてきている。本連載ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の先進事例を紹介。第1回はカインズ(埼玉県)を擁するベイシアグループのDXに迫る。
カインズ、ワークマン(群馬県)、ハンズ(東京都)など30社を束ねるベイシアグループ。2022年7月には、日本IBM出身の樋口正也氏をトップに、グループ横断のDXカンパニー「ベイシアグループソリューションズ」を設立した。
AIを駆使した需要予測、SNSやECサイトの口コミデータを生かした商品開発など、業務効率化、顧客満足度の最大化に取り組んでいる。属人性を排し、DXを進める上でいちばん大事なのは「人」らしい。
DXは人なり
DXとは非連続なイノベーションだ。すでに標準化・仕組み化された仕事と比べてアドリブの要素が多い。結果として、リーダー個人の経験や考え方が影響しやすいといえる。テクノロジー領域でキャリアを積んだ樋口氏は、ベイシアグループソリューションズでその知見を遺憾なく発揮している。たとえばエンジニア採用に関しては、全応募者のレジュメを読み込み、一次面接からエンジニアと技術的なディスカッションを交わしているという。
大切なのは、目的を達成するために必要な技術とスキルセットを理解し、適切な人材の採用からシステムの実装までスピーディに遂行すること。そして、現場を理解した上で技術力を発揮できる人材を育てることだ。樋口氏が人的資本経営に注力する理由はここにある。
エンジニアが入社したくなる組織へ
ベイシアグループにおける人的資本経営のポイントは、人事制度改革・採用・育成が三位一体となっていることだ。
第1に、人事制度改革。ベイシアグループもかつてはエンジニア採用に課題を抱えていた。まず、アナログな印象の小売業ではエンジニアに関心を持ってもらうのが難しい。その上、店舗と同じく土日・祝日出勤となると、家族に反対されることも少なくなかった。そこで、まずはグループ横断でIT人材は土日・祝日休みとし、検討のテーブルから真っ先に落とされないようにしたのだ。
さらに、国内外のテック企業のユニークな制度を研究。業務時間の20%で社内の別業務に挑戦できるテックバンジー制度、学習費用を補助するテックラーニング制度、IT資格合格者に報奨金を贈るテックサーティフィケーション制度など、自己研鑽(けんさん)を促した。
服装も自由化し、社内が一気にカジュアルになると、明るい会話が生まれやすくなったという。今ではTシャツにサーフパンツで面接に現れるツワモノも。
一つひとつは小さなことだが、積み重ねれば組織カルチャーが変わる。エンジニアが入社し、働き続けるモチベーションになるのだ。