全85アカウントでスタッフが顧客と「1対1」でつながる 三越伊勢丹のSNS活用戦略とは

2021/09/24 05:55
    野澤正毅
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    社員をメディアにして情報を拡散

    撮影風景
    リ・スタイルのスナップ撮影風景

     三越伊勢丹では、さらに、社員によるSNSでの情報発信にも力を入れている。

     同社MD統括部 オンラインクリエイショングループ メディア運営部 SNS推進の小川澄見子氏は、「SNSによる個人発の情報伝達が重みを増しているので、例えば、商品情報を店舗が直接発信するよりも、店舗のスタッフという“メディア”を介して発信したほうが、拡散しやすくなったと考えているからです」と説明する。

     21年現在、同社が運用している店舗・ショップ等の公式アカウントは約270、社員の公認個人アカウントは約85、個人アカウントの全フォロワー数は約7万7000人まで拡大している。1000人以上のフォロワーがいるアカウントは約20で、中には、1万人以上のフォロワーを獲得しているスタイリストもいるという。

     同部では、社員個人のプライベートな既存アカウントから公認アカウントを公募しているほか、アカウントの立ち上げなども支援しているが、運用方針は、会社として運用ガイドラインを設けるとともに、アカウントの持ち主である社員の自由裁量の幅を増やしている。

     公認コインアカウント約85の内訳として、伊勢丹新宿店の婦人・紳士ファッションの担当社員によるものが多いが、銀座三越には食の情報を発信している社員もいる。発信する情報も、店舗や商品に関するものに限らず、プライベートや趣味の蘊蓄といった話題でもOKだという。仕事に関する情報は、就業時間内に投稿しなければならないが、オフの時間に自分の趣味などの情報を投稿してもよい。休日にオフのコーディネートなどをアップする社員もいるという。

     また、「1ショップ1アカウント」といった決まりもなく、さまざまな切り口なら、複数のアカウントが同じブランドの同じ商品を取り上げるのも容認される。「三越伊勢丹のショップに関心があるお客さまだけでなく、取り扱うブランドやアイテムそのものに関心のあるSNSユーザーもいらっしゃるはず。いろいろなブランドをタグ検索したのがきっかけで、三越伊勢丹のショップを知るケースもあるからです」(同)。各アカウントのフォロワー数は少なくても、接点となるアカウント数が多くあったほうがいいという考えだ。

     とはいえ、公認アカウントのルールがないわけではない。同部ではガイドラインを設けて、例えば、社員の個人情報保護や安全確保の観点から、自宅が特定できる情報を掲載することを禁じている。一方で、社員には本名を名乗る必要はないが、“三越伊勢丹社員”であることを明示するように義務付けている。情報のリテラシーやセキュリティに関する講習会を開いたり、ガイドラインに関する質問を受け付けたりもしている。

     さらに、公認個人アカウント運用者の上司には半期に1回、エンゲージメントについての独自に策定した指標に基づく行動実績表を送付。顧客エンゲージメントの向上を実現した社員は毎年3月に表彰する仕組みにして、社員のモチベーションアップを図っている。

     「SNSを見にくるのは、当社のお客さまとは限りません。大勢の人に興味を持ってもらえる公認アカウントを増やし、フォロワー数を伸ばすことが先決ですね。フォローしてくれた人に、だんだん当社のファンになってもらえばいいわけです。売上が本当についてくるのは、その後ですね」と、小川氏はそのステップ感を語る。

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