[サンフランシスコ/台北 25日 ロイター] – 米アップルのエンジニアは例年この時期、秋の新型スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」発売に向けてアジアに飛び、製造工程について最終的な詰めを行う。しかし今年は新型コロナウイルスの感染拡大で米国から中国への渡航が制限されており、製造スケジュールに暗雲が漂っている。アップルの元従業員やサプライチェーンの専門家がロイターに明らかにした。
新型アイフォーンの製造が本格化するのは夏場だが、製造を請け負う台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とのすり合わせが実施されるのは、年初の数カ月だとアップルの元従業員2人は話す。
「アップルのエンジニアは今、鴻海のエンジニアと合流しているだろうか? そうであれば物事は進展しているだろう。しかし合流しておらず、隔離されているなら、悪影響が出かねない」と元従業員の1人は語る。
鴻海は中国の深セン、鄭州両市にあるアイフォーン製造工場の業務再開を延期しているが、今月末までに半分の生産を再開したい意向だ。
事情に詳しい筋がロイターに明らかにしたところでは、春節(旧正月)以降、台北でリモート(遠隔)勤務している鴻海の上級幹部らはまだ、大挙して中国に戻ってはいない。
アップルはコメントを控え、鴻海からも今のところコメントは得られていない。
アップルは先週、新型ウイルスの影響で今年1―3月期の売上高目標が達成できず、今後のアイフォーン生産も制限されるとの見通しを発表した。
鴻海も今月、新型ウイルスの影響で今年の売上高が押し下げられるとの見通しを示した。
アップルがお得意様である米ユナイテッド航空は今月、4月末まで中国便をすべて運航停止にすると発表。またアップルは1月28日、従業員の中国渡航を「ビジネス上、必要不可欠」なものに限るとした。
<現場協力が不可欠>
アイフォーンの製造過程に詳しい人々によると、新しいモデルが出る場合、プロトタイプ(原型)から数百万台の組み立てへと移行する作業は、春節明けの1月末から2月初めに本格化する。
アップルは通常、この時点で数多くのプロトタイプを試し終えており、鴻海の労働者が少しの台数を生産し、両社のエンジニアがトラブル対策を行う、いわゆる「エンジニアリング・バリデーション」の終盤に入っている。
この段階で作業が遅れると、アップルが半導体チップその他部品の発注を完了する時期に食い込む。こうした部品はほぼすべて、アイフォーン向けの特注品だ。
3月から4月にかけては、アップルと鴻海のエンジニアは共同で新たなアセンブリ(組み立て)ラインを設置して試行し、4、5月に最終調整を行う。アセンブリラインを6月には稼働させ、他にもラインを徐々に増やし生産を拡大できるようにするためだ。
アップルの元エンジニアであるアンナカトリナ・シェドレツキー氏は、新製品の製造にはエンジニアによる現場協力が欠かせないと指摘。「エンジニアらを別の場所に移動させることはできるが、(室内の厳密な空調など)その場所の環境下で製造するための知識が必要になる。ノウハウを教えられないというわけではないが、場所を移すのは難しい作業だ」と説明した。
スマートフォンメーカーに部品を納入する半導体企業の幹部は、関係者同士の対面での作業がまったくできない状態だと指摘。渡航制限により、1カ月にとどまらず、およそ2カ月の「失われた期間」が生じそうだとし、「消費者向け電子機器のサイクルでは、膨大な時間だ」と嘆いた。[