「アシストスーツ」は小売の現場に普及するか? =UPR / アシストスーツ
介護や製造などの現場で浸透しつつある「アシストスーツ」
近年、作業に伴う体への負担を軽減する「アシストスーツ」の注目度が高まっている。高齢化、人材確保難を背景に、ここ数年で導入企業が増加。とくに介護や製造などの現場で浸透しつつある。アシストスーツはまだ小売業界ではそれほど普及していないが、導入することでどのようなメリットがあるのだろうか。
2万円台のアシストスーツも
ロボット導入をはじめとした機械化の進展により、製造業を中心とした各産業の現場では危険な作業や重労働が減少傾向にあるが、人間の手による細やかな作業が必要とされるシーンはまだ多い。そうしたなか、作業時の体の負担を軽減するツールとして、「アシストスーツ」に注目が集まっている。
アシストスーツの草分け的存在のひとつが、物流機器のレンタル・販売などを手掛けるユーピーアール(東京都/酒田義矢社長)だ。これまで数々の製品を世に送り出してきた同社がアシストスーツ事業を開始したのは2010年のことだ。物流事業本部アシストスーツ事業部長の長澤仁氏は、「ここ2~3年で、需要が急拡大している。注文をいただいても納入が間に合わない状態で、現在は増産のための体制を整えているところだ」と話す。
同社の製品ラインアップを見ると、大きく分けて3種類のアシストスーツがある。バッテリーを搭載し、モーターにより作業を補助する「マッスルスーツ(動力タイプ)」、手動ポンプで空気を注入し、人工筋肉で作業を補助する「マッスルスーツ(無動力タイプ)」、そして、背骨を伸ばす補助具と腰ベルト、腰と膝をつなぐ弾力ある素材のベルトで構成される、比較的シンプルな構造の「サポートジャケット」である。 このうち、現在注文が殺到しているというのが「サポートジャケット」だ。
同社は18年9月、負担軽減に必要な基本的な機能を備えながら、業界初となる2万円台という低価格を実現した新モデルを発売した。前述のマッスルスーツ(動力タイプ)は90万円(税別)、無動力タイプは約50万円であり、圧倒的な低価格のサポートジャケットはたちまち市場の注目を集めた。
「重い荷物を持てる」だけじゃない!
ではアシストスーツは具体的にどのような分野で使われているのだろうか。 長澤氏は「介護の現場のほか、工場をはじめとする製造現場、また倉庫など荷物を扱う物流業界からの注文がとくに多い」と話す。政府による働き方改革推進を背景に、近年働きやすい労働環境の整備を進める企業が増えている。
労働災害が大きなリスクとなる製造業で採用が進むほか、介護などのように業種によってはアシストスーツを購入するための補助金が国から出るケースもある。 長澤氏によれば、まだ実験段階ではあるものの、アシストスーツを取り入れる小売企業も現れ始めている。
バックヤードでの荷受け作業や立ち仕事を行う従業員に着用させたところ、好評を得ているという。 荷物の上げ下ろしの際の負担を軽減するイメージが強いアシストスーツだが、長澤氏は「勘違いしてはいけない」と強調する。 「アシストスーツを装着すれば、『20 ㎏の荷物しか持てなかった人が50㎏を持ち上げられる』といったように、“パワーアップ”できると思われる方が多い。そうではなく、正しい姿勢をキープすることで、身体の負担を軽減するのがサポートジャケットの本来の機能だ」(長澤氏)。
重い荷物を持ち上げるだけでなく、立った状態でのパッケージング、加工といった幅広い業務において、体の負担を抑え、腰痛を防ぐ効果が期待できるのである。 ユーピーアールは今後もアシストスーツの普及に努める方針で、長澤氏は「将来的には、各産業の作業者にユニフォームのような感覚でアシストスーツを身に着けてもらいたい。当面は、低価格のサポートジャケットで価値を感じてもらい、その後に上位ラインの製品も使ってもらいたい」と意気込む
小売業界の可能性
アシストスーツは小売業界にも広がっていくのだろうか。納入した商品や機材の積み下ろし、バックヤードでの加工作業、レジ打ちなど、小売の現場の業務内容は多岐にわたる。「着けて立っているだけでも楽になる」(長澤氏)というサポートジャケットのようなアシストスーツが貢献する機会は多い。 さらに長澤氏は「ある介護の現場では、人材募集時にアシストスーツを導入しているとアピールしたところ、多くの応募が集まったというケースがある」とも教えてくれた。
アシストスーツは単なる負担軽減だけでなく、採用活動にも有利に働くのである。業態を超えた人材獲得競争にさらされる小売企業にとって、アシストスーツが救いの一手になる可能性もありそうだ。
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