中国関連はEC関連のニュースが取り上げられることが多いが、オフラインにおいてもグローバル旗艦店がオープンし、ポップアップキャンペーンが特に一・二級都市を中心にかなり盛んに開かれている。今回はEC大国であるからこそオフライン体験をとても重視している上海での事例を紹介する。
GENTLE MONSTERの未来型リテール「HAUS」の二店舗目、 HAUS SHANGHAI
2021年10月に中国初の未来型リテールスペース「HAUS SHANGHAI」が正式にオープンした。HAUSとは、メガネブランドGENTLE MONSTERによって作られた未来型リテール店舗である。2021年3月ソウルにHAUS DOSANがオープン、HAUSプロジェクトの二店舗目かつ中国初の旗艦店となる。
総面積3350平方メートル4階建てとなっており、1階はGENTLE MONSTER傘下のデザートブランド「NUDAKE」、2階は世界最大の「GENTLE MONSTERストア」、3階はブランドがキュレーションした展覧会やコラボレーションを展示する展示スペース、4階は中国初のフレグランスブランド「TAMBURINS」の旗艦店で構成され、ユニークな没入型スペースでまったく新しい未来の小売体験を提供する。
1階には本物の馬と同じ大きさの「機械馬」がおり、ある時は鳴き、ある時は咀嚼している。3階の展示スペースには巨大な人間の顔がゆっくりと動いている。
もともとGENTLE MONSTERは店舗ごとにコンセプトがありそれぞれが個性的なインテリアで有名だが、実はこの「HAUS SHANGHAI」はブランド側からの出店ではなく、上海がデザイン都市として未来的な店舗空間である「HAUS SHANGHAI」の誘致に成功し、特徴的でユニークな未来のリテール体験を中国市場に初めてもたらした。
HAUS SHANGHAIのオープンは、小売店の空間に新しい風を吹き込み、消費者との新たな関係性を構築し、世界の観光目的地として上海の新しいクリエイティブなトレンドになるだろう。
ローカル野菜市場とコラボするPRADA「FeelsLikePrada」キャンペーン
上海のおしゃれエリアに「烏中市集」というローカル市場がある。2019年に行われた改装により古さと新しさを融合し、若い人たちも撮影に来るような流行市場に生まれ変わった。2021年国慶節にプラダがその烏中市集とコラボレーションした。と言っても普段の市場の包装紙がプラダに変更されたのみで、価格も普段と同じだ。
しかしこのキャンペーンは中国でかなりの反響を呼び、期間中どのSNSを見てもプラダのロゴと市場の様子がアップされていた。この異例のコラボレーションはプラダの「FeelsLikePrada」シリーズを宣伝するために行われたもので、2021年秋冬広告キャンペーン「感情の喚起を探求する」を表現。
日常のシーンの中での親密さの概念と、実際に手に触れられて感じられる触感の意味を、意図的に多面的な要素を取り入れながらブランドのビジョンを提示する。この上海の烏中市集という野菜市場を選ぶのも新生プラダらしいキャンペーンだ。実際の商品がない場合でも、ブランドのユニークなプリントを通してプラダの世界観に没入することができる。包装紙や紙袋にはQRコードなど一切の広告導線がない潔さだ。
その他の都市ではパリ、ローマ、ミラノ、フィレンツェ、東京、ロンドン、NYなどで9月下旬から一斉に行われている。東京では中目黒のYUKIYAMESHIのいなり寿司の包装が2021AWの模様の布に包まれている。
こうしたブランドのリアルな接点はその時その場でしか見ることができない限定感があり、週末のお出かけ候補になりやすい。その限定感からSNSにアップしようと、ブランドの歴史やキャンペーンの意図を再度確認する人が多く、改めてブランドに共感したり愛着が沸いたり、スター商品や不朽の名品を深く理解するきっかけになるという好循環が多々見られる。
EC大国の中国ではKOLなどのライブコマースがキャンペーンの主戦場と思われがちだが、このようにオフラインでの接点も多く、特にブランドの世界観にどっぷり浸れるリアルでの顧客体験を高める施策も数多く行われている。
さらにはブランドからだけでなく、上海という都市自体が商業的にアートや体験価値を向上させようとするなど、街とブランドが一体となって取り組んでいる。上海のオフラインでの新しいリテールの可能性に今後も注目だ。
日系ブランドコンサルとして、上海に拠点を構え、ブランド戦略立案とクリエイティブ制作を提供する。多数のリサーチ案件を通じて消費者、マーケット動向を注意深く観察し、中国市場に合わせたブランドカルチャライズ®を数多く手掛ける。上海、東京、香港に拠点あり。