ユニクロ過去最高益を更新 トランプ関税への備えと個店経営強化が示す意味
変わる中国消費者の消費、今後の展望は?
次に海外事業だ。上期の売上収益は1兆141億円(対前年同期比14.7%増)、営業利益は1685億円(同11.7%増)と大幅な増収増益で過去最高の業績を達成している。エリア別に見ると、東南アジア・インド・オーストラリア地区、北米、欧州は大幅な増収増益。一方、グレーターチャイナは、事業改革の途上にあり減収減益だったようだ。

中国に関しては自身のネットワークを使って調べてもらったが、ユニクロのブランド力や知名度は圧倒的であるものの、やはり同社の決算説明会でも説明があったように、MDがややチグハグに見えるとのことだった。これは、同社のMDが失敗したのではなく、中国という市場の特殊性であり、場所が変われば言葉も文化も嗜好も変わってきて、従来の同一業態、同一MDでは、どこかのエリアにあっていても他があっていないということだった。
さらに、最近の中国人は、購買の“知的化”が進んでおり、ブランドだとか服の国籍にそれほどこだわりをもっておらず、「好きなものは買う」「無駄な消費はしない」という買い方に変わってきているようだ。また、ベーシック衣料が得意な同社だが、ローカルマーケットでは約50元 (約960円:2025年4月時点)以下でTシャツが買えるので、ユニクロの品質は認めるも圧倒的な価格差が生まれている模様。しかし、有名デザイナーとのコラボした際は店舗には長蛇の列ができており、このあたりも中国ならではというところだろうか。
ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は、「課題はハッキリしている」と決算説明会で述べていた。その中では、同一業態、同一MDではなく、エリア別の権限委譲と個店経営を強く打ち出しており、その解決策は合理性を持つものだと思われる。その結果は下期に出てくるだろうが、米国の見事な復活を踏まえると、中国も成功してゆくと私は思う。
ユニクロに死角無し? トランプ関税の影響は
同社の決算説明会によれば、今回のトランプ関税の影響を2~3%(流動的ではあるが)としており、あくまでも強気だ。彼の地では150%近い関税の応酬となっているが、影響は少なく、通期の過去最高益は十分達成可能とのことである。
理由は2つあり、まず、1点目は「今年の秋冬の米国向け商品はすでに出荷済みであり、従って、トランプ関税適応前に終わっている」とのこと。繊維は、どの国も5-10%の輸入関税を課しており、それは、圧倒的に途上国の経済発展のための産業であるためで、手作業が多いから先進国には(よほどの付加価値品でない限り)模倣できない。
それでは、その後の出荷についてはどうなのか。実は、日本含め世界の工場たる中国に一極集中となり、「チャイナプラスワン」といって、生産地を中国意外に分散する動きが(繊維産業だけでなく)あらゆる産業でおきた。そこで、繊維の生産国に浮上してきたのがバングラデッシュ、ミャンマー、そのほかタイ、ベトナム、インドネシアなどである。
すでにユニクロはバングラデッシュで相当量の繊維製品をつくっているため、こうしたポートフォリオを使えば、中国を避けることができる。当然、トランプの相互関税はすべての輸入品を対象にしているが、いまから繊維などという産業を米国で本気で戻すとは思えないし、明らかに対立軸にある米中のような関係を避けることは十分可能なのである。
まとめると、繰り返しになるがユニクロの経営戦略は分かりやすく合理的であり、またもや「ユニクロ死角無し」と言わざるを得ないものであるというのが私の結論である。
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