スーパーマーケット業界のゲームチェンジャー、オーケー創業者・飯田勧氏の経営哲学とは
経営を人任せにしていた
同社の経営戦略には飯田社長の独自性が強く反映されている。中でもオーケーを特徴づけているのがEDLPだ。同社が EDLPを価格政策の軸としたのは86年から。いったいなぜ、EDLPを導入しようと考えたのだろうか。
あるとき、飯田社長が自社の店舗を巡回していると、定価100円の商品を98円で販売していた。これに飯田社長はショックを受けた。同社の基本方針である「高品質・お買徳」が建前になっていると感じたからだ。
「経営を人任せにしていた。これでは駄目だと反省しました。ふだんから競合店の特売価格に負けないような売価に引き下げないと、お客さまから信頼されなくなると考え、思い切ってEDLPに舵を切ったのです」。86年以降、商品数を絞り込み、単品の販売数量を増やすことに力を入れるようになった。同年には従来の会社の基本方針「高品質・お買徳」に、「EDLP」を付け加えている。
こんなエピソードもある。終戦後に物価統制が敷かれる中、飯田社長は統制価格を上回る価格で販売する闇の業者が利益を得て、勢力を拡大していくのを目の当たりにしていた。食料不足の中、相手の懐具合を探りながら商売する闇市の販売方法には相当な嫌悪感を持つようになった。
「長い目で見れば正直な価格提示をしないと、いつかはお客さまから信頼されなくなる。父はつねに薄利多売でお客さまの信用を得て、長く商売を続けていくことが何より大切だと話していました。私もこの教えを守っているのです」。
EDLPは徹底しなければお客の支持を得られない
EDLPを始めた後、同社はお客の支持を獲得し、売上を順調に伸ばしていった。飯田社長が仕掛けたゲームチェンジが成功したのである。今でこそEDLPを謳う小売業が増えているが、うまくいっている企業は多くない。
なぜ、同社のEDLPがお客から支持されているのか。
それはEDLPを徹底させているからである。「EDLPと言いながら、都合のいいときに高くして、悪いときには安く売るのでは、EDLPは浸透しません。お客さまはよく見ていますから」。
EDLPを始めた当初、商品の仕入れ先から理解を得るのは大変だった。チラシを利用して価格の安さを訴求し、販売数量を増やすことで利益を確保しようとするのが当たり前だった時代だ。販売数量が見込めるかどうかもわからないのに、つねに低価格で販売するEDLPに対し、仕入先の多くは理解を示さなかった。協力を得られない場合、同社では自らの利益を削り、EDLPを徹底させた。
「これは私の信念。受け入れていただけない仕入れ先があれば自らの利益を削るか、新たな仕入れ先を開拓するほかなかった」。こうした努力が実を結び、消費者の中に「オーケーはいつでも安い」というイメージを植え付けることに成功したのである。
価格とともに、商品そのものに対して「正直さ」を打ち出していることも、お客から支持を受ける理由のひとつとなっている。
たとえば売場随所にみられる「オネストカード」だ。「相場が高騰しておりまして、次回の買付分から値上げしなければならなくなりました。値上がり前にお求めくださいますと、お得です」「本日販売しておりますスイカは、日照不足のため糖度が不足しています。お差し支え無ければ、他の商品のご利用をお薦めします」。商品の状態をわかりやすく、マイナスの情報も正直に伝えることで、お客の信頼を得ている。
EDLPを実現させるためには、EDLC(エブリデイ・ロー・コスト)体制の構築が必要となるが、同社では店舗の従業員を無理に減らすことはない。「SMの運営は人手がかかるものです。従業員が減るとお客さまへのサービスが行き渡らなくなります。だから売上が伸びれば従業員はたくさん投入しても構わない。逆に売上の少ない店は調整する必要がありますが、最初から店舗の売上がどれくらいになるのか事前に把握はできません。売上は先読みできないものですから、その都度調整していくのです」。
売上が低調の店舗があれば、経費率が割高の店舗もある。改善するためには上から指示を押しつけるのではなく、自分たちで考え、解決させるのが飯田流だ。
「人間はどこかで修正しようという気持ちが働くものです。ですから社員にはヒントを与えたら放っておきます。自分たちで修正を加えている店舗では、その努力が自然と売上に反映されていきます。自ら考え、解決していくうちに競争力のある店舗になるのです」。
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