物言う株主時代に脚光!宅配以外もスゴい「生協」の事業モデルとは
生協に学ぶべきポイントとは
ただし、組合員ニーズに応えるという使命のもと、一歩間違うと事業の収支管理が甘くなるおそれがある点は、生協経営において注意すべき点だろう。店舗事業が赤字の生協は多いが、仮にこの赤字が一掃できれば、より組合員の福祉に資金を投じることが可能になる。増やした利益を売価に還元できれば、インフレに苦しむ組合員の暮らしの助けになる。また、小売業界ではテクノロジーや物流に大規模な投資が必要となっており、それに足る十分な利益を確保することは各生協が事業の継続性を高めるためにも重要だ。
ただし「巨額の設備投資や大規模なM&A(合併・買収)はできなくとも、積み上げた利益を継続的に投資に回していけば十分なDX(デジタル・トランスフォーメーション)は可能」と前出の入山教授は指摘する。たとえばコープさっぽろ(北海道/大見英明理事長)は14年以降、物流の完全自前化のために巨額の投資を重ね、いまでは物流を「プロフィットセンター化」している。そもそも多くの生協において宅配事業は高収益事業であり、収益性トップクラスの生協では経常剰余率(経常利益率)は5~6%もある。
生協の強みは、高収益の宅配事業だけではない。県域規制の縛りがあるゆえに、限られたエリア内で宅配、店舗、夕食宅配、共済などの事業を複層的に展開し、組合員とのタッチポイントを増やしてきた。
単一事業だけに依存せずに、複数事業でウォレット・シェアを高める厚みのある事業構造の構築に行きついた。とくにコープさっぽろは、店舗網と物流網を活用し、エネルギー事業、スクールランチを提供する配食事業、健康診断事業にまで領域を拡大。各種サービスで統一ポイントが貯まる制度を23年から開始し、事業全体の利用額をさらに押し上げる効果を得ている。多くの店舗小売業が、収益のほぼすべてをリアル店舗に依存しているなかでは、注目すべき戦略と言えるだろう。
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1990年代後半、「生協のスーパーマーケット化」が進み、小売企業と同質化したがゆえに苦境に陥った地域生協が続出した。だが、その後の原点回帰と事業連帯の推進などの構造改革の結果、多くの有力生協は健全性を取り戻し、小売業と異なる土俵で戦う、いまの時代に合った「生協モデル」に磨きをかけようとしている。
今後日本では、人口減少、少子高齢化、働き手不足などさまざまな問題がより顕在化していく。そのなかで、地域住民(=組合員)の問題解決に特化して事業化できる生協は、組合員の高齢化など課題は重いものの、飛躍のチャンスにもなるはずだ。
すでに一部の先進的な小売業は生協の考え方に共鳴している。良品計画(東京都/堂前宣夫社長)は各地域生協との連携を強化しており、30年までのビジョンとして「個店を通じて、日常生活の基本を担うと共に、地域社会と共生し課題解決や町づくりに貢献する」という、かなり生協と近い価値観を持ち、経営を進める。
いまこそ小売業は、生協および生協型経営から何かを学ぶべき時ではないだろうか?
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