徹底考察! ドン・キホーテ新業態「ドミセ」出店の真のねらい

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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「ドミセ」展開に隠されたねらい

 ただ、安さをウリにする以上、調達価格を低減するための努力を怠っていない点も特筆しておきたい。PPIHが「サプライズ」と「価格」の両立を求め、サプライヤーの提案を広く求めていることはよく知られている。一般的なディスカウントストアであれば、サプライヤーからの膨大な提案の中から、コストパフォーマンスの高い商品を選択して品揃えすれば売場をつくることができる。だが、それだけではドンキの「世界観」を満たす売場にはならないのであろう。

 ドンキの世界観を理解したPPIHの商品開発チームが、求める商品のコンセプトとコスパを、サプライヤーとの協業により創り出していかなければ、膨大な商品を取り扱うドンキの売場を構成することは難しい。消費者に常にサプライズを提供し続けるためには、ドンキ自身が商品開発に深く関わっていくことが欠かせないのである。

 しかし、PBであるということは、商品の売れ残りリスクをすべて抱えることであるのは言うまでもない。とくに、サプライズをねらう“尖った”PBである情熱価格は、「ドすべり」となる可能性を常に孕んでいる。しかし、リスク管理を優先する姿勢を内外に示せば、売れ残りを恐れて、開発担当者やサプライヤーは必ずや委縮する方向へ向かうだろう。こうした委縮を防ぐために「ドミセ」はあるのではないだろうか。

 ドミセの「ドすべりコーナー」は、いわば「ドンキPBのアウトレット」であり、仮にこれが広がっていけば在庫損失を低減していくことができる。なるべく廃棄をせずに、少しでも売り切っていくことはSDGs(持続的な開発目標)にもかなう。開発担当者自らが工夫し、少しでも無駄にならないようにPOPを書いて売っていくことでその責任を全うし、「次こそは」と再チャレンジに向かうことができる。そして、それらを悲喜こもごものストーリーとして見せていくことがドンキユーザーの共感を呼ぶのである。売れ残り処分セールという後ろ向きの響きをも消し去るドミセというモデルは、ドンキにしかできないだろう。

 PPIHではすでにドミセの2号店を大阪府八尾市の「アリオ八尾店」内に出店している。「アリオ」はイトーヨーカ堂(東京都)が運営するショッピングモールであり、ここから連想するのは、ドミセの出店場所だ。

 イトーヨーカ堂をはじめとしたGMS各社は、非食品売場をテナント化を進めていく方針を打ち出しており、今後はGMSの2階以上の売場がテナント売場として数多く開放されることになるだろう。PPIH傘下に入ったユニー(愛知県)も、ドンキに出店余地を提供したとみることができる。ドミセの展開は、そうした出店地の開発ともつながっているとすれば──気が付けば小売業界の第4位にのし上がったPPIHの真骨頂はそうしたしたたかさにあるような気がする。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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