購買データが導く最適解!売場を活用した実践型マーケティング
※本記事はダイヤモンド・チェーンストア3月1日号別冊「流通テクノロジー」の一部記事を再編集したものです。文中の所属・肩書等は発行時点のものです。
「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都/吉田直樹社長:以下、PPIH)と博報堂( 東京都/水島正幸社長)の合弁会社であるpHmedia(東京都/奥田薫社長)が、新たな枠組みのリテールメディア戦略を推進している。
膨大な購買データと実店舗の売場を活用し、メーカーとともに“売れる仕組み”を構築。広告の枠を超えた販促施策を展開し、データドリブンなマーケティングを実践している。
メーカーの売上向上と顧客満足の両立をめざす、PPIHが描くリテールメディアの未来とは。
売場と会員データ活用で、最適な販促施策を提案
pHmediaは、ディスカウントストア(DS)の「ドン・キホーテ」を中心に国内で600店舗超を展開するPPIHと広告会社の博報堂が2023年12月に共同で設立した、リテールメディアを扱う事業会社だ。
同社はデータを活用した販促支援を強化し、メーカーと協業して最適なマーケティング施策を立案することを目的に設立された。そして、その実現に向け、メーカーの広告宣伝事業部、営業部、小売企業、消費者がそれぞれメリットを享受できる「四方よし」を実現する、「新たなリテールメディア」の開発・提供に取り組んでいる。

pHmediaがリテールメディアととらえるのは、アプリやデジタルサイネージのみならず、店舗の棚ひいては売場全体だ。この考えを基に「ドン・キホーテ」「アピタ」などの売場と、自社アプリ「majica」が有する約1600万人の会員に紐づくデータを活用し、売場づくりを含めたメーカーへのコンサルティング営業を展開。
商品の特性や購買傾向を分析し、たとえば「『ドン・キホーテ』の売場で誰にどのような販売手法をした結果、競合他社に比べて商品の売上がどれほど伸びたのか」といった具体的な事例を踏まえた最適な販促施策を提案している。

「狼煙(のろし)型マーケティング」で課題を早期発見
pHmediaの奥田薫社長は国内のリテールメディア市場について「近年、メーカーのリテールメディアへの関心が高まり、専門部署の新設が進むなどリテールメディアの活用が本格化している状況だ」と話す。
また、デジタル広告やアプリの活用が進み、データドリブンな意思決定が重要視されるようになった。
リテールメディア市場の環境の変化に伴い、メーカーのマーケティング課題も多様化している。pHmediaCOO(最高執行責任者)兼営業部部長の松居達也氏は「従来は認知率や好意度がおもなKPIだったが、近年は『ターゲット層の売上をピンポイントで上げたい』『棚割や売場づくりに寄与する施策を考案してほしい』といった要望も増えてきた」と説明する。
pHmediaが新たなマーケティングアプローチとして掲げるのが、「狼煙型マーケティング」だ。「狼煙」という名のとおり「ドン・キホーテ」の売場で商品の売れ行きをシビアに検証し、成功した施策をマーケティングプロセス全体へ広げていく新たなプラットフォームである。
具体的には、購買データやID-POS分析などを組み合わせて新たなプロモーションの切り口を発掘し、実際の売場でテストをミニマムに実施。ターゲットのリアルな反応を踏まえて、改善を行っていく。
この手法をとることによって、たとえば「一見順調に売れているように見える商品でも、競合が徐々にシェアを奪い始めている」といった、従来のマーケティング手法では可視化できなかった課題を早期に発見し、対策を講じることができるようになった。
そのほか購買データ分析では、特定の1人(N=1)の顧客の行動を徹底的に深掘りし、本質的なニーズを探る分析手法「N1分析」を導入し始めた。分析にあたっては、購買行動の特徴をもとに顧客を4~5種類に分類し、ある商品の購入を起点に「購入以前はどのような商品を買っていたか」「購入時に同時併買した商品は何か」「購入後、リピート購入しているか」など、一人ひとりの購買行動を深掘りしていく。
従来、メーカーは消費者の購買行動を推測するしかなかったが、N1分析では消費者の購買行動を実際の購買データに基づいて正確にとらえられるのだ。なお、N1分析は、個人を特定しないかたちで実施されている。
またN1分析は単なる商品単体の購買動向を知るだけではなく、メーカーのブランド戦略や販売戦略全体に影響を与える施策を立案するためのデータ基盤ともなる。
アサヒビール(東京都/松山一雄社長)が23年10月に発売した低アルコール飲料「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」(以下、ドライクリスタル)での取り組みが好例だ。
pHmediaが同商品を購入した人を対象にN1分析を実施したところ、ドライクリスタルを購入する前はおもに缶チューハイやノンアルコール飲料を買っていたが、ドライクリスタルを購入した後には「アサヒスーパードライ」も買うようになったという購買行動が見て取れた。ドライクリスタルがキーとなって、これまで取り込めていなかった層を新たに獲得できていることが判明したのだ。
奥田氏は「エントリー層を基幹ブランドであるスーパードライへ移行させる手がかりを見出すことができた」と、その手応えを話す。
