ABCマート、一人勝ちの秘密 勝ち組小売業に共通する3つの真理とは何か
店が売れている企業を、販管費から見抜く方法とは
まず、同社の売上と店舗数の推移をみてみよう(出所: 同社22年度FACTBOOKより)。
売上・出店ともに順調に伸びているようだ。21年2月期の売上落ち込みは新型コロナウイルスの影響と思われるが、通期で退店はしておらず、その後も店数は増え続け、売上も順調に回復し23年2月期に、20年2月期(コロナ以前)売上を抜いている。ちなみに1店舗あたり売上高は海外店舗数も含めた単純計算で、20年2月期が2億432万円、23年2月期は1億9909万円であり、コロナ前の水準に戻りつつあることがわかる。
ここからみてわかるように、同社はECでなく、出店で売上を作っている企業であると思われる。このように、出店で売上を成長させている企業は、販管費内の地代・家賃の売上比よりも、固定費である人件費の売上比率が高く、あるいは出店にかかる減価償却費が販管費を押し上げる傾向にあるのだが、実際同社の販管費の内訳をみてみたい。
確かに、過去3カ年(20年2月期~22年2月期、最新期ではない点に注意)の単体の販管費内訳を見ても、(21年2月期は異常値としても)予想通り3期連続でトップは人件費で、地代家賃に2ポイントほど差をつけている。
これが、売れない店になると、販管費に占める内訳のトップは地代家賃が常連となる。直営店の場合、こうした企業はいわゆるファッション企業に多く、内装に凝っているため早い企業だと3年ごとに内装のリニューアルを行い、坪単価20万円程度の費用が恒常的にかかり減価償却費が嵩んでくる。一方でデフレが加速する、つまり単価が下落傾向となるMD(商品政策)とのバランスがとれなくなってきて収益性が悪化する。
こうした負のスパイラルに陥っている業態ほど、ハイテクやECに手を出し顧客とのタッチポイントを増やそうとするわけだが、これはROI(投資利益率)がほとんど成立しない。理由は、そもそも売れない業態だからで、高価なハイテクをサブスク固定費で払い続けていれば、ROIは悪化する。この場合、丁寧な決算報告であれば「外部委託費用」という形で、サブスク費を出すわけだが、これは管理会計上、地代家賃に参入すべきでリアル店舗がバーチャル店舗に代わっただけと考えるべきだ。
これに対して、ドン・キホーテ、しまむら、そして、ユニクロやABCマートは、やり方は違えど、目指すべきところは同じだ。ローコストオペレーションを徹底し、人流の多い場所に出店して売上をつくっていくというクラシカルな手法で売上を伸ばしていることが分かる。
「クラシカル」という言葉を私は使ったが、現実のところ、出店すれば赤字が増えるだけで、このようにはならない企業が多い。今、日本中は店だらけで、特に地方に行けばユニクロとABCマートは「鉄板ストア」となっており、この2店が入っていないモールはないほどだ。その秘密がよくわかる、今回の分析である。
そして、販管費の売比は、ファーストリテイリング同様40%を切っている。したがって、SPAアパレルの営業利益率が一般的に5%未満なのに対して、同社の営業利益率は15%程度(21年2月期除く)と、極めて高い利益率を誇っている。これでは、儲からないはずがない。
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