経済産業省が15年ぶりに示す流通業のビジョン!インフレ危機をチャンスに変える3つの方法とは
経済産業省は2023年3月、流通業のあるべきビジョンとして「物価高における流通業のあり方検討会最終報告書~よみがえるリアル店舗~」(以下、本報告書)を発表した。経済産業省が流通業のビジョンを示すのは、07年に「新流通ビジョン」を発表して以来、15年ぶりとなる。流通業に示された指針と経営のヒントを要約して解説したい。
小売業の収益性が低い理由
経済産業省では2022年7月から23年3月まで計7回にわたり、流通業の業界団体や実務者、学識経験者らで構成される「物価高における流通業のあり方検討会」(以下、本検討会)を開催。流通・サプライチェーンの課題やDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進など、物価高騰下で消費者に商品を安定的に供給するための流通業のあり方について議論を重ねてきた。
本報告書は、本検討会での一連の議論をふまえてまとめられたものだ。
GDP(国内総生産)で14%、労働人口で16%を占める流通業は、製造業に次ぐ主要な産業であり、国民生活や地域経済に欠かせない社会的な存在意義も持つ。強い現場力によって、いかなるときも商品を安定的に供給して消費者の生活を支え続け、世界でトップレベルの質の高いきめ細やかなサービスを提供してきた。
日本では、生鮮食品などの生活必需品を近隣の店舗で頻繁に購入するという消費者行動が一般的で、諸外国と比べて店舗密度が高い。小売業の社数が多く、寡占化されていないのも特徴だ。地域ごとに多様で豊かな食文化を持つため取扱品目数(SKU)が多く、季節に合わせて商品の入れ替えも頻繁に行われている。小売業の収益性は相対的に低い。その要因として、特売価格政策を中心とする過度な価格競争や販管費の高さがあげられる。
日本の流通業の労働生産性は諸外国と比べて低い水準にとどまり、その賃金水準も国内の他業種に比べて低い(図表❶)。リソース(事業に必要な資源・資本全般)にしっかりと投資し、リソースの価値を十分に引き出して収益を稼ぎ、労働の対価として賃金をきちんと上げるという意識が薄い傾向にあり、その結果として、現場の労働力や対応力に依存しているのが現状だ。
日本は、1990年代初頭からの「失われた30年」を経て、40年ぶりのインフレに見舞われている。22年以降の世界的な物価高は、供給側のリソースの制約に伴うコスト増加に起因する「コストプッシュ型」だ。
日本では、企業物価指数の上昇幅に比べて消費者物価指数が伸びておらず、その乖離が欧米よりも大きい。つまり、物価高騰などによるコストの増加分を消費者価格に十分反映できず、その一部を流通業が負担し、収益構造を圧迫している。
人口減少と少子高齢化がすすむなか、労働集約型産業である流通業にとって最大の課題は労働力の確保だ。産業全体の労働人口の推移予測をベースとした経済産業省の試算によると、全国平均1店舗当たりの従業員数は現在の50人から30年時点で45.5人、40年には40.2人まで減少すると見込まれている。
このように、流通業は、物価高やコスト高騰の一方で、消費者から価格抑制の圧力を受け、賃上げも社会的に要請されるという三重のプレッシャーにさらされている。また、人手不足が顕在化しつつあり、中長期的には労働力の確保がさらに厳しくなるという脅威もある。
リソース制約の危機こそ変革の機会!
本報告書では、流通業が直面するリソース制約の危機を変革の機会と位置づけている。流通業に従事する人が働き甲斐を感じ、労働の価値を最大限に発揮するためには、「人」に着目してリソースの考え方を根本的に問い直し、業務革新によって生産性を向上させ、企業の収益力を高め、賃金の上昇につなげることが不可欠だ。
これまでの延長線上にない新しい取り組みをすすめるためには、
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