10年後10兆円をめざすファーストリテイリングの死角とは?財務と戦略を徹底分析!
販管費率は脅威の35.7%!
ファーストリテイリングの業績が圧巻である理由
Peter Fleming/istock
そこまでファーストリテイリングを褒めちぎる理由は、下記の2つの資料で説明は十分だ。
ファーストリテイリングの前期までの事業の振り返りをしておきたい。
ファーストリテイリングは22年8月期、売上の約半分を占めるグレーターチャイナで負け越し、また、日本でも昨対を割ったが、それを、なかなか利益が出なかった北米の黒字化と、ロシア市場がなくなったにもかかわらず欧州で挽回するなど奇跡の最高益を遂げたことは記憶に新しい。しかし、中国と日本という売上の70%程度を占める市場で負け越している実態に、アナリストたちはやや不安を隠しきれない状況だったと記憶している。
では、23年8月期上期はどうだったか?
売上は20.4%増収で、粗利は引きずられるように17.9%の増益だ。驚くべきは、売上高販管費率である。私は再三、グローバルに勝負を挑むためには「販管費率は40%が鉄則」と述べてきたが、なんと同社の販管費率は35.7%である。これは、グローバルSPAと比較してもトップクラスの値であり、リアル店舗を中心に売上を作っている同社の店舗効率の良さを現しているのだろう。
しかも同社は、店長の年収も非常に高いことで有名だ。さらに驚くべきは、この円安による収益悪化要因はほんの-1.1% であるということだ。これは、同社の事業が世界中に散らばっており、日本だけの市場で戦っている他のアパレルと異なり、為替変動の影響をそれほど受けないということだ。
その結果、営業利益は+14.5%で、文句のつけようもない。もちろん今、アパレル各社はどこもコロナ後のリベンジ消費で我が世の春を謳歌している一方、夏以降の反作用で売上は落ち込むだろうと私はみているが、同社も同様、通期予想は保守的に見ているようだ。
世界的大企業を
ベンチャーのごとく経営する「第四創業期」
同社の半期決算説明を聞くと、グループ経営を本格的に稼働するため、横(国を跨いで世界中を飛び回る)と縦(現場に降りて消費者の声に耳を傾ける)を文字通り縦横無尽に移動し、スピードと統一を両方手に入れるための施策を考えていることがよくわかる。柳井正会長兼CEOは、これを「第四創業期」と命名していた。
柳井正会長兼社長の発する言葉がやや抽象的だと過去にも指摘してきたがそれは今回も同様だった一方で、役員たちの言葉に力強さを感じた。かつて、ファーストリテイリングの最大のリスクは(後継者への継承が進まないということも含め)柳井正氏という傑出した存在にあるという認識を多くの産業界の人がしていた。だが今はその問題は解決され、ファーストリテイリングの人材が有機的に末端まで「柳井イズム」を理解して社員全員が力強く動いている印象を受けた。
さて、このセグメント別半期決算を見ると、中国(韓国、台湾などは増収増益)だけが負け越しているようで、あとは全て作対比を超えて成長しているようだ。確かに、中国はゼロコロナ政策によって、国民の自由な移動が制限されていたしサプライチェーンも万全ではなかった。
具体的数値は示されなかったが、中国も23年1月からは増収増益になっているという。この部分のみを信じれば、同社は同社のいうように完全な「成長期」に入ったことになる。そして驚くことに、今後10年で今の3倍の売上規模となる「売上高10兆円」を狙うという。
地球上に10兆円のアパレル企業など存在しないから、人類が誰も到達しなかった「一枚数千円の服のビジネス」で前人未到の領域にゆくことになるわけだ。ファーストリテイリングの営業利益率は15%だから、もしこの水準のまま10兆円を達成したら、同社の営業利益は1兆5000億円となる。トヨタの直近の営業利益が3兆円(売上30兆円)なので、事業価値ではほとんど負けていない可能性もある。
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