「再生繊維」が本質的にサステナブルではなく、「対処療法」に過ぎない理由
先日、某アパレル企業の情報システム部長と話をしたところ、PLM (Product Lifecycle Management)は無事稼働し、現在はセカンドステップ、すなわち欧州Higg Indexへの対応と協力工場への拡張(現在は自家工場と商社保有工場のみで稼働)に四苦八苦している段階だという。この企業は極めてうまくPLMを導入し、その恩恵も十分受けており、世界へのさらなる拡販に向け、世界標準のHigg Indexを採用するなど「健康的な汗をかいている」という。情報システム部主体でけん引しつつも、各部署との情報連携も頻繁に行うことで、極めて難易度の高いPLMを稼働させたことは称賛に値すると思う。
一方で、頭を悩ませているのが、「素材」に関する課題だという。「衣料品のクレームの80%は素材に起因し、さらに、その原因は染色に起因する」とは、私が現役商社マン時代に習った言葉だ。今日は、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から次々と現れる「サステナ素材」の光と影について所見を述べたいと思う。
なぜ作りすぎを放置し対処療法に終始するのか
問題解決は素人には難しい。特に、本質的な課題(クリティカル・ポイント)にたどり着かず、対処療法と呼ばれる「その場しのぎ」に終始し、それで課題解決ができたと考える人が多い。
「課題」は、複数の要素が互いに連鎖し合い原因と結果が連なっている。例えば、風邪を引いた場合、熱が出る、咳が出る、関節が痛いなど「症状」が現れるわけだが、根本的には、風邪のウイルスを殺さなければ風邪は治らない。だから、風邪薬と称して、解熱剤、咳止め、痛み止めなどを飲むわけだが、それは、体の中の免疫がウイルスを押さえ込むまでの対処療法といえる。風邪の場合、そもそも「ウイルス」というのは、クスリでは治せないため、体の中の免疫がウイルスに勝つまでの時間稼ぎと分かってやっているのだが、風邪薬が風邪を治すと考えている人が多い。
これと同じことが日本のアパレル産業にも言える。本連載でも幾度も紹介したように、国民一人が年間に18枚しか買わないのに、国民一人あたり年間35枚も商品を投入している。つまり、一年間に17枚もの衣料品が過剰在庫として残っている現状を放置し、その翌年もさらにその翌年も同じように作り続けているのである。
ちなみに、この問題を提起しているはずの環境省のHPでも、国民が購買した18枚のみを対象にし、残され毎年積みあがっているはずの過剰在庫については、一切の言及がないという有様なのだ。
私が首をかしげるのは、次々と現れる「再生繊維」と呼ばれるものだ。一例として、「再生ポリエステル」について考えてみよう。
日本国内で60秒間に100万本が消費されているというペットボトル。これが、不法投棄され、海洋ゴミとなり、地球環境を激しく破壊しているという問題がある。このペットボトルを使って衣料品の繊維素材を作るというのが再生繊維である。
しかし、この再生繊維、衣料品を着なくなれば、また反毛(衣料品から原材料に戻すこと)を行い、幾度も衣料品が使えると思い違いをしている人が少なからずいる(実は、私も昔はそう思っていた)。しかし実態として、再生繊維を反毛してさらに再活用し、まさに文字通り循環型経済活動に寄与しているという話は聞いたことがない。結局、たった一回の使い切りなのである。
「それでも、捨てられたゴミを放置するよりは良いだろう」という声が聞こえてきそうだ。だが、その衣料品も必ずいつかは「ゴミ」となるわけで、これをもって循環型経済と呼ぶのはいかがなものかと私は思う。
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