「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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35mmf2/istock
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 いわゆるLTV (顧客生涯価値、商品粗利 x セット率 x 年間購買頻度 滞在年数 )が、このCPAを上回ることができれば、企業は利益を得られるわけだ。このようにいうと、「なにを当たり前のことを」というが、そこが、上記にあげた輸出と輸入の差額が同じなのに、円高でも円安でも大騒ぎしているメディア脳というわけなのだ

 この「初期的にクーポンやキャンペーン、ディスカウントをバラマキ、顧客を自社ブランド内に囲い込んで、LTVを上げる施策を打つ」という施策をEC企業以外のアパレル企業は理解してないように思う。

顧客を囲い込む必然性は「少子化」にある

 顧客を囲い込む必然性は、「少子化」にある。

 需要が供給を上回るときは、商品(製造拠点を含む)を押さえ、商品を安く思い通りに作れば山のように利益が落ちた。1990年のアパレル黄金期のプロパー消化率は95%といわれている。つまり、値引きという概念がなかったのだ。商品回転率、商品粗利、商品原価率など、供給側の「商品」をベースにつくられた今のKPIは、このときにできた。

 商品軸の経営を突き詰めたときに出てきた言葉がSPAだ。この言葉を日本人は「製造小売」と誤訳してしまった。そして、自ら店舗オペレーションに力を入れるも、「ものづくりはよくわからん」と、商社に丸投げし「なんちゃって製造小売」が量産されることとなる。店頭と工場が連動して動くどころか、商品投入だけは1990年の手法をそのまま使い、マーケットも顧客も見ぬままセンター倉庫に商品をぶち込んだわけだ。

 しかし、そもそも、マーケットサイズが100しかないところに、120150の商品を投入しているのだ。どれほど腕のよいマーケターであっても、供給過剰の商品を完全に売り切ることなどできるはずなどない。だから、1990年から市場が右肩下がりに減少しても、余剰在庫は山のように増え続けていったのである。

 需要が縮小し供給過多となり不可逆的にこのトレンドが進行する今、これからは顧客を囲い込むしか勝つ術がないのである。そして、KPIも商品起点の古いものではなく、リアル店舗であっても顧客起点のものにすべて変えなければならなということなのである。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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