「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由

河合 拓
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一時的な消費の回復に一喜一憂し自己改革が遅れる悲劇

 岸田内閣は「異次元の少子化対策」と命名した政策を高々と掲げるも、その意味や内容を理解している人は本人含め誰もいないように見える。

  おそらく、「聖域のない」そして「投資金額に糸目をつけない」少子化対策、という意味なのだろう、とこちらがおもんぱかるしかないのである。

 いずれにせよ、何をするのかを明確にしないまま「言葉」だけを旗揚げし、世界の先進国でこの問題に取り組み、輝かしい成果を恒常的に上げたという国がない以上(フランス、スウェーデンなどの議論は一旦外させてもらう)、あまり期待できないことは明白だ。

 さて、私は、今、アパレル産業に必要なのは、経済学、とくに古典的経営学についてもっと学ぶことだと思う。

 なぜなら、アパレルは社会の鏡(かがみ) であり、社会の動きや動向を正しく理解しなければ、不調の「真犯人」を特定することができない、それほど経済とアパレル経営は密接に絡んでいるからだ。もはや売場でのデジタル化や物流の自動倉庫、過剰在庫抑制など、課題を矮小化した些末な議論をいくら繰り返しても真犯人にはたどり着かないのである。実際、この論考の読者で、「最新のデジタルソリューション」とやらを導入し、輝かしい成果をあげたという企業は何社あるのだろうか。

 今、経済学の観点から考えると、「緊縮財政か金融緩和か」「円安は本当に悪か、円安でボロもうけしている企業の話はなぜ報道されないのか?」という話が徹底議論すべき大事なトピックになっている。後者についていえば、日本の輸出額は2021年で83.1兆円あり、輸入額は84.8兆円だった。この統計をみるだけでも、円安で儲けている企業が、円安で苦しんでいる企業と同じぐらい日本には存在することが見て取れる。こうした統計をみても、メディアの報道はおかしいと思わないのだろうか。

これからアパレル企業の大ディスカウントが起きる理由

designer491/istock
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 話を少子化に戻そう。私も岸田内閣がすべき一丁目一番地は、「少子高齢化対策」だと思う。私が、ビジネススクールの授業でPPM (プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)について話していた時のことだ。市場が成長しておらず、また、競合に負けている「DOG(負け)ポジションは何かという議論をしていた時、私は、思うがまま「そのポジションにあるのは、Z世代(向けのビジネス)じゃないのか」と、学生に対し私の考えを話してみた。

 市場が成長していない=少子化が進む

 競合に負けている=SHEINDHOLICなどに完璧に負けている

 とくに統計をみて、PPMの初期仮説で「Z世代」を上げるのは、なんら不思議ではないしむしろ自然ではないかと思うが、読者の方はどう想うだろうか?

 問題は生徒の方だ。おそらく、みな沈黙を守っていたが、頭の中で「我が社は次はZ世代を攻めよう」と思っているのだろう。彼らの難しい顔つきをみれば考えていることは直ぐ分かる。

しかし、PPMのフレームワークを使えば、「Z世代」は撤退セグメントだ。私は、「Z世代を攻めても、負けが待っている現実」と題して、拙著『知らなきゃいけないアパレルの話』(ダイヤモンド社)に書き綴っている。

 もしも、経営学的にはその真反対が正しいとされるなら、あなたはどう思うだろうか。問題は、自分の頭で考えない人たちが多いということである。

 さて、ターゲットとなる市場セグメントが縮小する場合、そして、EC化率を拡大して成長をねらうのであれば、勝ち筋は一択しかない。

 それは、まずは、何より先に、大量の広告や値引きクーポンなどを配り、ターゲットとなる消費者層のビッグデータを貯めることだ。

 投下する広告総量から、自社のデータベースにクレジットカードを登録してくれる顧客の数で割ったものがCPA(顧客獲得コスト)という。このCPAの効率を可能な限り高め、購買した商品を気に入った顧客にクロスセルやアップセルなどを奨めて、そのブランドの購買頻度やセット率、一点単価を高めるのである。

 

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