「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由

河合 拓
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供給が需要を上回るとき、顧客囲い込みは常識

 私のところに最近、工場や紡績企業などから相談が来るのだが、彼らは驚くほどマーケットのことを知らない。

 業界専門誌を読めばわかるが、これら川中、川上の戦略やマーケット理解のズレは大きい。とくに、着飾るファッションとしての服の短命化とSDGsにより教えられる衣料品購買の買い替え需要の長期化の矛盾に気づいていない。

 そして、大学生の2人に1人が奨学金を利用し、衣料品の主たる購買者である働く女性の40%がワーキングプアという恐ろしい現実、そして、その現実が起こすマーケットでの戦い方を全く分かっていないのである。

 企業の環境イメージに投資をすることに対し、彼らが「それは、グリーンウォッシュですね」というのに対し、私が「全く違います」と答える理由がわかるだろう。

 企業が消費者をだましてイメージ戦略だけを大事にしているのではなく、消費者は環境コストを負担するだけの金銭的余裕がないのである。

 だから、需要が供給を上回り、不可逆的に少子化が進むなか、企業がやることは異次元の政策に期待する以上に、顧客を囲い込み、通販企業から顧客ベースのKPIである、客単価、顧客粗利、顧客獲得コスト、顧客生涯価値などを正しく学び、運用することである。 

 私が、この論考を書いた理由は、赤字を大量に出し顧客を囲い込む段階にある企業に対する評価である。財務諸表を分析した、私の元同僚も含む数々の専門家達が、「この企業は広告宣伝費が多すぎる」という、まったく思慮のかけらもない主張をしていたからである。

 減価償却可能な投資の場合は損益計算書に与える影響度が少ない(耐用年数分で案分などされる)ので目立たないし、こういう企業はEBITで分析するのが通常だから、問題ないのだが、いわゆる世の中の変化を科学する経済学について無知だと、このように企業戦略のいろはの「い」がわからなくなる。

 今、QRコード決済や電子マネーなども全く同じ動きをしており、多くの企業がしのぎをけずって顧客にポイント還元を行っている。この意味をまったくわかっていないと、単に「広告費が多すぎる」と総括しあやまった判断をしてしまうことになるし、そういうコンサルが圧倒的に多い。

 今、「無知」こそ企業を地獄に落とす危険な道具だ。「世の中のトレンドは」など、分かるような分からないような話をする前に、バズワードのない古典的経営学と金融や為替、株価の動向を動かす経済学の触り程度は学ばないと、気づけば、あっとういう間に顧客のいない(競合がAmazonのようにスーパーハイテクでしっかり囲い込んでいる)市場めがけ竹槍で応戦することになる。その結果は火を見るより明らか、というものだ。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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