アパレルビジネス一変!「コストダウン」から「調達コスト無料化」へ進む衝撃の近未来とは
もはや調達コストという概念すら消失する
こうした初期仮説から、私は過去、プロジェクトで「データ・ビジネス」をやってはどうかと提案したことがある。テクノロジーがかほど進化した時代、そして、これ以上成長が望めない時代では、顧客の囲い込みとLTV (Life time value 顧客が生涯に落とすお金の総量)が勝負を決める。例えば、通販企業を買収するとき、デューデリジェンスのポイントは顧客基盤だ。極論を言えば、欲しいのはそれだけ。顧客データさえあれば無限の販売手法を駆使し、顧客満足度を最大化することができ、また、そのCS (顧客満足)は多大な利益を企業に落とすことになる。Googleモデルだ。さらに、保管された人間の年齢別、性別、嗜好別動的データを活用すれば、工場とダイレクトにつなぎSheinのようなモンスターD2Cを生み出すことも可能だし、VR(仮想現実)技術と組み合わせれば、店頭での試着も不要になるばかりでなく、健康管理やスポーツ医療にも応用ができる。繊維を使った商品の調達コストそのものの販売が、他のサービスから利益を生み出すのだから単なる無料以上の可能性があるわけだ。
自社人体データを保管し、自社プライベートブランドに組み込めば、そうした繊維で作られた衣料品を販売すればするほどデータ精度は高まる。
例えば、健康管理、パーソナルドクター、パーソナルトレーナー、ファッションコーディネートなどさらりと思いつくだけでも、その可能性は無限だ。
つまり、これからのアパレルビジネスは、カラダにまといつくという特性上、調達コストという概念は消滅するばかりでなく、販売も無料になる可能性さえある。こうした発想を経営用語で「ゲームのルールチェンジャー」というのだが、競合が必死にコスト競争をしており、世界のグローバルSPAが規模の経済を生かしたコストメリットを出す場合、全く異なる視点から逆転を狙うことも可能だ。これが、コストゼロの可能性である。昨今は、SDGsの観点から再生可能繊維の需要が高まっているため、必ずしも天然繊維でなくとも良い風潮が高まり、こうした技術開発は追い風になっている。
ZOZOSUITS戦略が惜しいな、と感じたのは、人体データの計測を実際の衣料品購買の前にやらねばならないことだった。データとはfootprint (足跡)と言って、動的な活動の中から自然にストアされる仕組みを作らねば絶対に広がらない。
本来、あの技術は、春・夏ならコットン(ポリエステルはコットンの合成繊維)、シルク(レーヨンなど半再生繊維はシルクの代替繊維)、ウール(アクリルはウールの代替繊維だが原材料が化石化源料を使っているため、今後使用は難しくなるかもしれない)の三大化合線繊維に組み込み、ウエアラブルデバイスと結合させることだった。見れば、同社のホームページには似たようなことが書かれているが、なぜか日本のアパレル産業でこうした動きが起きているという話を聞かなくなった。
いかがだろう。私の好きな言葉に、「技術に不可能なことはない、大事なことはビジョンである」、というものがある。こうした技術戦略をデジタル企業に頼むクライアントが多く、結果、さしたるビジョンもなく、技術優先で話が的外れな方向に流れてゆく様を幾度も見てきた。今、時代の変わり目に戦略と類いまれなる産業知見がもつ意味が高まっている。
*河合拓単独ウェビナー後半 個別企業の戦略と改革編 を10月27日に開催!
講演テーマは「アパレル産業の今と未来」第三段階
日時:10月27日 10:30-
時間無制限で、個別企業のMD、余剰在庫、EC、
https://ameblo.jp/takukawai/entry-12701203940.html
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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