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洋風食品専門店のサンクゼールが和のセレクトショップ「久世福商店」を立ち上げたきっかけとは?

商業施設への出店を中心に、「サンクゼール」「久世福商店」の2業態の食のセレクトショップを展開するサンクゼール(長野県/久世良太社長)。創業から40年以上の歴史を持つ同社は、商品の企画・開発から調達、販売に至るまでを自社で展開する食のSPA(製造小売)企業だ。本記事では「サンクゼール」「久世福商店」のコンセプトや取り扱い商品、コロナ禍の状況、今後の出店戦略について解説する。

「田舎の豊かさ」を提供する「サンクゼール」

サンクゼール店内

 サンクゼールの創業は1979年。ペンション経営をしていた創業者夫妻が、近隣の農家から分けてもらったリンゴでつくったジャムを宿泊客に提供したのが始まりだ。徐々にそのおいしさの評判が広まり、長野県内のリゾート地の土産屋を中心に販売網を拡大。次第に全国の小売店に商品を卸すようになった(当時の社名は斑尾高原農場)。

 しかし、粗利率の高い商品を重視する当時の取引先と、多少価格が上がっても品質の高い商品を提供したいというサンクゼールの方針が合わなくなり、同社は自前での店舗展開を決意。99年には、軽井沢の大型商業施設に初の直営店「サンクゼール・ワイナリー軽井沢店」を開業した。

サンクゼールオリジナルのワイン

 「サンクゼール」は「Country Comfort(田舎の豊かさ、心地よさ)」をコンセプトに掲げており、1店舗当たりの売場面積は約30坪となっている。創業のきっかけとなったジャムのほか、パスタソースやワイン、シードルなどの洋風の商品を約600アイテム取り扱っている。最近では食卓に並べる「テーブルソース」に力を入れており、パンに塗って食べる「4種のチーズ&ベーコン」(702円:以下、税込)などが人気だ。

 

海外展開が「久世福商店」開発のきっかけ

久世福商店の売場

 一方、伝統的な日本食材を中心に取り扱う「久世福商店」の第1号店である「久世福商店イオンモール幕張新都心店」がオープンしたのは2013年。洋風の食品を取り扱う「サンクゼール」とは真逆のコンセプトである業態を開発したのは、海外からの反応がきっかけだったという。

 10年ほど前、「サンクゼール」での海外進出を計画し、中国や香港、シンガポールなどで開催された展示会に参加したほか、中国では現地のスーパーマーケットと提携して直営店も出店した。しかし、現地の反応は思わしくなく、「なぜ日本人なのにワインやジャムを売っているのか。醤油や日本酒を売るべきだ」という声が相当数あったという。

 結局、国際情勢の悪化などもあり撤退。その後、イオンモールから出店を依頼された際、「新しい業態で出店してほしい」との要望があったため、いずれこだわりの日本食材を武器に海外展開することを視野に入れて新たに開発したのが「久世福商店」だ。

ヒット商品の「海苔バター」

 「久世福商店」のアイテム数は約10001300アイテムほど。塩や醤油、味噌、酢などの調味料のほか、昆布などの海藻類や鰹節など出汁系の商品、煎餅や飴などの菓子類、地酒やこだわり焼酎といった酒類などを展開。「昔からある日本の伝統的な食品」を中心に取り扱っている。近年はごはんのおともになる瓶詰のおかずに注力。パンとも相性がよい「海苔バター」(463円)や「至福のひと時 大人のしゃけしゃけめんたい」(626円)などがヒット商品となっている。

 

今後は郊外や地方都市への出店にシフト

 サンクゼールは203月期まで10期連続で増収を続けていたが、「サンクゼール」「久世福商店」ともに商業施設への出店が大半であるため、コロナ禍では売上に大きく影響を受けたという。とくに一度目の緊急事態宣言の際は、約150店舗のうち3分の2ほどが休業状態となった。

常務取締役 リテール事業本部長 久世福商店ビジネスユニット ユニット長 山田保和氏

 しかし、今後も利便性や集客などの観点から商業施設内への出店を基本としつつ、「久世福商店イオン釧路店」(北海道釧路郡、1912月開業)や「久世福商店ピオニウォーク東松山店」(埼玉県東松山市、2010月開業)など、人口1020万人規模の地方都市に出店した店舗が好業績を収めていることから、郊外や地方都市での展開に主軸を置きたい考えだ。「こだわりの日本食材を購入できる場所が地方にはほとんどない。当社の商品を自分でも食べたい、他の人にも薦めたいと思っている方は地方にも一定数存在するとみている」(常務取締役 リテール事業本部長 久世福商店ビジネスユニット ユニット長 山田保和氏)。

 一方、コロナ禍では在宅勤務の普及などもあり都市部での外出機会が減っていることから、東京・大阪を中心に都市部立地の約20店舗を閉店した。

 今後は年間10~12店舗ほどの出店を続ける考えだ。基本的には「久世福商店」を出店しつつ、「サンクゼール」では既存店やワイナリーやレストランなども有する本店をブラッシュアップすることでブランド力の向上に注力する。「本店は丘の上にあり、周りは自然豊かでゆったりできる。田んぼやリンゴ畑の眺めも素晴らしい。このロケーションを活用し、訪れたお客さまにおいしいワインでゆっくりとした時間を過ごしてほしい」(山田氏)

 次回はサンクゼールのSPA戦略やECプラットフォーム事業について解説します。お楽しみに!