日本人が大好きな衣料品セール 安く買うのが難しくなる理由とは
今後、セールの値引き率が抑制される理由

さて、プロパー価格とセールのメカニズムを見てきたが、昨年よりアパレル業界で衝撃的なことが起きた。昨今の円安が原因となって、コストプッシュにより、値引き余力のあるプロパー価格をつけられなくなったのだ。日本のアパレルは99%が輸入だから、コストは為替によって大きく左右される。さすがに1ドル160円近い、近年例がない円安水準になると、上代(プロパー価格)を上げなければならない。だから、多くのアパレルが割引率を抑制したり、セール対象アイテムを減らすといった「セールの抑制」をはじめたのである。
先陣を切ってセールを抑制したのがユニクロだ。日本はユニクロがやれば他の企業も追随するので、各社一斉にセール価格を抑えにかかった。
ちなみにユニクロの場合、海外事業の売上・利益のほうがいまや大きくなったので、円安になれば海外の売上・利益・資産が大きく膨れ上がるという、いままでのアパレル企業にはなかった現象が起きている。
それ以前の日本のアパレル業界は、「輸入産業」だったので内需で利益を出していたため、「円安は苦しく、円高は儲かる」状態だった。しかし、ユニクロは円高になれば約9000億円の売上収益(23年8月期)がある日本市場が儲かることになり、円安になれば海外の売上.・利益・資産が膨れ上がる。
さて、話をセールに戻そう。多くのアパレル企業はセールを抑制したのだが、売上が落ちるどころかむしろ売上は拡大した。「セールによる買い控え」が起こらない企業がそれなりに出てきたのである。
これは、インバウンド客が、海外に店舗を持つブランドを認知し、円安効果により自国で買うよりもはるかに安く買えるため、日本でそのブランド品を買ったためである。
海外でそれなりにプレゼンスがあるアパレル企業はいまや、日本国内売上の20%程度がインバウンド売上だと言われている。
セールは今後、AIの統計処理などを使い、商品ごとに細かくダイナミックプライシングが導入されていく。セール開始時期も一斉ではなく商品ごと、また、値引率も商品ごとに変わってゆくだろう。具体的に言えば、売価変更にAIが組み込まれ、必要量から初速(最初に売られるスピード)、在庫、そして当該商品のライフサイクルなどを変数として、全体としてもっとも儲かる価格が設定されるようになる。
これによってセールでの値引き率は減ることになり、セール好きの日本人にとっては大変残念なことになる。アパレル各社の消化率はアップし、収益性も回復するわけだから、為替次第ではあるが正規価格が引き下げられる(最適化される)ことも消費者としては期待したいところだが、それは果たして、どうだろうか?
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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