元ロフト社長が語る! リアル店舗に”行く意味”のつくり方
新カテゴリーを積極導入し、売場に「房」をつくる
――確かに、商品のラインアップを拡充したところで来店動機には直結しない時代です。そこからどのように売場を立て直したのでしょうか。
内田 やはり、わざわざ店に行く理由や楽しさを創出することが必須です。季節ごとのニーズに寄り添うのはもちろん、商品との偶発的な出会いを提供したり、その店にいるだけでわくわくする楽しさが得られるような仕掛けをしたりといった取り組みが、当時のロフトには足りていなかった。
そこでまず実行したのが品揃えの改革です。社員が主体となって、新しいカテゴリーと商品を積極的に入れていくようにしました。極端な話、「去年売れたものは今年は売らなくていい。それよりも新しい要素を売場に入れよう」という考え方です。春夏秋冬・朝昼晩のお客さまのあらゆるニーズに寄り添いつつ、日常に楽しさを演出できるような商品を提案することに注力しました。
――品揃えが変われば、必然的に売場のつくり方も変わっていきますね。
内田 売場づくりの面では、「房(ふさ)」という概念を取り入れました。ぶどうはきらびやかな一粒一粒がまとまって一つの房を形成しますよね。それと同じように、既存の売場に「新しいカテゴリー」という粒をどんどん差し込んで、房をつくりだしていくという考え方です。
もちろん、商品をただ増やしただけでは魅力的な売場にはなりません。商品の”魅せ方”にも徹底的にこだわりました。たとえば直線的な動線から回遊性の高い動線に変更するためにテーブル什器の配置を工夫したり、全店でVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)のコンテストを行ったりしました。
VMDコンテストについては単純な売場の展開手法や装飾といった視覚的な要素だけではなく、「なぜこの品揃えにしたのか」「なぜこういった展開手法を考えたのか」といった意図も聞き出し、従業員のVMDに対するリテラシーを向上させました。
また、店舗ではパート従業員にも発注権限を与え、だいたい週2回の頻度で約1500SKUの商品については発注を任せるようにしました。現場で働く従業員が「考える」ことをしないと、売場は絶対に変わりません。考えることで従業員のスキルも上がります。
商品との出会い、買物の楽しさを最大化させるために
――そうした抜本的な改革はどのような効果を生み出しましたか。
内田 何より、お客さまが楽しそうに売場を回遊することになったことです。小型の店でも滞留時間が大きく伸び、ある新店のオープン時にはお子様を連れながら2時間くらい売場を見て回るお客さまもいらっしゃいました。かつてのロフトの売場ではほとんど見られなかったような光景です。
結果として、取り組みをスタートして約2年で業績が回復しました。各店が多くのお客さまでにぎわうようになったことで、従業員のモチベーションも大きく向上しました。業績よりもこのことが一番うれしかったですね。
――ネット通販では得られない、リアル店舗ならではの”楽しさ”を最大限に打ち出すことの重要性を痛感するエピソードです。
内田 とくにロフトのような雑貨をメーンに扱う業態は、非計画購買を促すことが重要です。ロフトで目的買いされるのは手帳くらいでしょう。「こんなアイテムがあったなんて」「この商品おもしろい! ちょっと買ってみよう」といった驚きや発見を売場や商品で演出する。モノであふれる今日、「これ欲しいな」と思えるものに出会える。これこそがリアル店舗の持つ意味だと思うのです。
その意味を自店に備えられるか。業態に関係なく、リアル店舗を運営する企業が今後淘汰されることなく事業を継続するためには、”リアルの意味”をしっかりと導き出し、店に反映させることが重要なポイントでしょう。