成功企業のシステムをそのまま導入してもうまくいかない本質的な理由
企業が戦略を立てるうえで一番大事なことは、その企業がどのような課題を抱えているかを正確に把握することにある。ところが、多くの日本企業は、「勝ち組企業の成功事例をそのまま導入すれば、自分たちの課題も全て解決できる」と思い込んでいる節がある。この本質は、誤ったものの見方による戦略の誤謬にある。
「平均貯蓄額」のマジックと消費への悪影響
人生100年時代といわれ、「我々庶民は老後いくらぐらいのお金が必要か」、「自分は大丈夫なのか」、そのような見出しの論説を見ない日はない。私は、こうしたテーマを見聞きするたびに感じる違和感がある。
それは、「国民の平均貯蓄額」についてだ。様々な統計・分析があるが、それらの殆どが総じて「貯蓄過剰」に見えるのは私だけだろうか。いつから日本人はこんなに豊かになったのだろうか。
「このままゆけば、自分は老後破綻が待っている。もう贅沢はやめて家計を絞れるだけ絞り無駄遣いは辞めよう」。
私も含め、そう感じている人は多いはずだ。ところが、よその多くの世帯は、自分たちをはるかに上回る貯蓄を持っているのだと、統計データは示しているのである。
実は、ファッション商品のような嗜好品が売れなくなる背景には、このような「明るい未来が見えない」こととは無関係では無い。そもそも人は服など一度買えば数年は繰り返し着ることができるのだから、毎シーズン新製品を買う必要など無いのである。
さて、話をこの違和感の本質へと戻そう。実はこのカラクリは単純だ。要は全体を構成する「ごく一部の資産家や大金持ち」が「平均値」を押し上げ、「日本人シニアの平均貯蓄額は数千万だ」といっているに過ぎないのだ。実際、日本で年収1,000万円以上の人は人口の4%程度で、世帯別でいって10%程度に過ぎない。いくら、世の中がデフレといっても、子育てをしながら家を買い、自家用車を保有し、老後に5000万も6000万も貯蓄できないことなど計算すればすぐに分かる。服が売れないのも、出生率が下がっているのも、消費者がこうした情報に囲まれているからだ。