成功企業のシステムをそのまま導入してもうまくいかない本質的な理由

河合 拓
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成功企業のパッケージ型システムをそのまま導入する愚

 こうした誤ったものの見方による戦略の誤謬は、アパレルビジネスや小売りビジネスにも等しく起きている。

  ある大手アパレルが導入した基幹システムのデモに参加した時のことである。私は「この仕組みを理解し、他アパレルへ展開して欲しい」という依頼を受けた。その大手アパレルとは、高成長を遂げ、日経平均を押し上げるほどのパワーを持った企業。多くのアパレル企業がベンチマークし「勝利の方程式」を盗みたいと思っていたため、「これはビジネスになる」と私も考えた。

  パッケージ型のシステムというのは業務プロセスそのものだ。だから、勝ち組が採用しているシステムを導入することで、「自社業務を勝ち組企業と同じようにすれば、彼らのように成功できるのではないか」という気持ちが働く。

 しかし、そのシステムの説明を聞いて、私は逆にアパレル業界が持つ課題の本質を見た気がした。どういうことか順を追って説明したい。

 そのシステムは、以下のような業務フローを前提に作られていた。

 まず、在庫を大量に囲いこみ、市場に散らばる店頭の販売パワーを商材と季節などと掛け合わせて分析。DC (ディストリビューションセンター)からTC (トランスファーセンター / 商品を仕訳する場)を経由し、店頭へ最適配分してゆく流れで構成されていた。そのシステムの目玉は店舗パワーに応じた商品の適正配分にある。

  この説明になんら違和感を持たない人も多いかもしれないが、「このまま導入するとまずいことになる」と直感的に感じた。なぜなら、日本の大多数のアパレルは、このビジネスフローのように在庫を抱え、店頭の販売力にあわせて商品配分すれば、売り切ることができる、というものではないからだ。

 このシステムを使っているアパレルは、そもそも商品完成度が圧倒的に高く、消費者は優先的にこのアパレルの商品を買うほど競争力が高いからだ。だから、生産から調達、そして、店頭へという直線的な販売を正確に制御すれば業績が上がるのだ。

 しかし、本連載で何度も指摘してきたように、大多数のアパレルの競争力は低く、商品に差別性はない。

 このように、競争力と差別性に乏しいアパレルでは、商品供給は上記のシステムの業務フローとは真逆の動きをする。多くのアパレルでは、売れない商品は徹底して売れないのだ。いくら価格を下げても消費者の財布は緩まない。昔の教科書は、価格は商品を売り切るための調整変数だとされていたが、今は、定価で買うことが希で、多くの消費者は何らかの理由でディスカウントされた商品以外に衣料品を買わないようになっている。

  それなのに、上場企業であれば、システム投資をすると言えばなぜか株価が上がるし、非上場企業でもシステム投資案件であれば投資委員会を通りやすい。そのとき「あの企業が使っている」という言葉以上の殺し文句はない。

 残念ながら、これが、私が現場で見聞きしてきたリアルな実態である。本来、このようなビジネスを実現したい、だから、システム投資が必要であるというステップで検討すべきデジタル戦略なのだが、目的と手段が逆になっているのだ。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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