#9 イオンという「外資」が、3極寡占化を促した
イオン躍進のきっかけは、ポスフールのグループ入り
一方、北海道市場においてイオンが真の意味で存在感を発揮するようになるのは、03年にポスフール(旧マイカル北海道)がイオングループ入りしてからのことです。
マイカル北海道もラルズとともに「北海道現象」5社の一つに数えられ、当初は「反イオン」の急先鋒でした。
拓銀破綻直後には、釧路、千歳、帯広、江別、北見の五つの「サティ」が年商100億円超えを達成し、総合スーパーとして群を抜く競争力を誇っていました。当時社長だった大川祐一氏は地方の衣料品店主から2度の合併を経てマイカル傘下に入った経歴の持ち主とあって、他の本州系総合スーパーとは異なり、地域特性に合ったきめ細かな店づくりを得意としていたのです。
マイカル本体が96年に各地域子会社の商品部を親会社に統合すると決めた際には「地域密着の仕入れを行うには自前の商品部が欠かせない」と主張し、ただ1人拒否を貫いたという逸話も残っています。こうした大川氏のリーダーシップによって、01年にマイカルが経営破綻した際にも、マイカル北海道は連鎖倒産を免れることができた。
「親会社の拡大路線に疑問を持ち、“親離れ”を進めてきたからこそ生き残ることができた。もう大手の傘下で苦労するのはこりごりだ」-。大川氏は、マイカルの再建スポンサーとなったイオンの傘下に入ることを強く拒みました。社名を「ポスフール」に変えて「自主独立」の立場を鮮明にし、02年にはアークスとの経営統合へと動いたのです。
しかし、アークスとポスフールによる「反イオン連合」結成は、言わば「資本の論理」によって頓挫してしまいます。マイカルのスポンサーであるイオンは自動的にポスフールの筆頭株主になるため、アークスと対等合併した場合の新会社にもイオンの出資が10%以上残り「われわれまでイオンの影響下に入ってしまう」(横山氏)。イオンがポスフール株を手放す気がない以上、「自主独立」は不可能であることは明らかでした。
結局、「いつまでも筆頭株主と冷戦を続けるわけにはいかない」という大川氏の方針転換によってポスフールは03年11月にイオングループ入りしました。これによってイオンは、ポスフールが持つ1200億円の道内売上高と大川氏が築いた地域密着の商品調達ルートを手に入れることに成功します。「外資」のイメージが強かったイオンが北海道の消費者の信頼を獲得する転機になりました。
「外敵」イオンの存在が3極構造を導いた
ポスフールは07年、道内のイオン直営モールの移管を受けて「イオン北海道」に社名変更し、当初の思惑とは反対に道内イオングループの中核企業として今日に至っています。
20年前に岡田氏が述べた「外資と勝負するための猶予期間はあと5年」との予言は、国内の小売業者にとっては良い意味で的中しなかったと言えるでしょう。
2000年にイオンの本拠地・幕張に乗り込んだカルフールは、逆に5年で撤退し、残された店舗はイオンのものになった。02年に西友への資本参加という形で日本に進出したウォルマートも昨年、撤退報道が出るなど「市場を席巻する」にはほど遠い状況です。
それでも岡田氏の危機意識が、イオンを「グローバル10」に駆り立て、それに刺激された道内有力スーパーによるアークスグループ結成というダイナミックな動きを引き出すことになった。「外敵」としてのイオンの登場が北海道のスーパーの経営体質を一段と強靱化し、今日の3極寡占化を導く契機となったのは間違いありません。
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