「ソフトバンク、ヤフーの新流通革命」オンライン特別編集版、最終回。流通業界において、ソフトバンクグループ(東京都:以下、SBG)の孫正義会長兼社長を頂点とする“ソフトバンク陣営”の存在感が大きくなってきている。第5回はEC市場でソフトバンク、ヤフー陣営のはるか先を行く、アマゾン、楽天の牙城をどう崩すかについて解説する。また、こうした状況下で、リアル店舗小売業はどうすべきかについても言及した(本論考は筆者である河合拓氏が、ターンアラウンドマネージャーとして20年の経験と、30年の小売事業の経験が元になっている分析仮説の後編である 前編である第4回はコチラ)。
Amazon、楽天の牙城を崩す方法は1つ
先行する楽天、アマゾンの鉄壁とも言える牙城を崩す方法は実は1つしか無い。それは、私が書籍で書いた戦略、つまり、「キラーアイテム」(誰もが必ず買う商品)、「キラーサービス」(誰もが必ず利用するサービス)と連携させ、敵陣の弱点をつき、オセロのように駒をひっくり返すものである。
たとえば、ソフトバンク・ヤフー連合には、日本ではじめてiPhoneを導入した通信キャリアである「SoftBank」、そして、Tポイント(Tポイント・ジャパンとの業務提携)がある。ましてや、今回事業提携を進めているLINEというウルトラ・キラーサービスが加わる。LINEというのは、コミュニケーションツールの定番のような存在で、物販にはほど遠いイメージがあるが、この「売らんかな」という“営業臭さがない”ところがよいのだ。Googleが、無敵のMicrosoftの牙城をひっくり返せたのは、物販にはほど遠い、消費者にとって無料とは思えないほどの高い精度のサービスを連携提供したからである。したがって、Zホールディングスは、これらのサービスとほかのサービス、物販を自然なかたちで連携させ、敵陣に風穴を開けるわけだ。
たとえば、ZOZOの買収についていうなら、「ZOZOを使いたければ、うちのサービスをもっと使いなさい」、あるいは、「ZOZOで買った方はうちのサービスを利用すればさらにお得ですよ」、という連携戦略である。
ただし、この考え方は一見正しいように見えるものの、現実的には戦略的欠陥も私は感じている。ブランドとの相性の問題だ。
13年、マクドナルドが1000円バーガーを販売し話題になったが、すぐに消えてなくなった。安価品を売る店で高級品は売れない。小売ビジネスというのは、商品、接客、店舗の3つが揃ってはじめて全価値をつくり出す。ZOZOの顧客は、元々は類い希なるファッション好きで構成さていた。ファッションを強く追い求める顧客が、クロスセル(関連商品の販売)でファッション品とは対極にある食料品などの一般消費財を買うとは思えない。小売業には、店と商品間の「相性」が存在するのだ。
高感度ZOZOと日用品を連携させる方法
ソフトバンクグループを率いる百戦錬磨の孫正義氏が、そのようなことを理解していないはずはない。実際、L I N Eは、Amazonや楽天に風穴を開けるに十分なキラーサービスだし、ZOZOTOWNは今、激安商品のオンパレード、高級ブランドは「ゾゾグジット(ZOZO離れ)」を起こしている。これを逆利用しようという発想だ。
高感度ブランドが減れば減るほど、そのほかの日用品との親和性は高くなる。この戦略がまず1つだろう。
もう一つは、残る高感度商品群を、ファッション商品以外のものと組み合わせ、Zホールディングスの中で、あたかもリアル店舗の世界を歩けば「ルミネ」と「伊勢丹」とに分かれているように、コンパートメントをわける戦略である。これは、同社が得意としているAIを使えば、DO’S(すべきこと)とDON’T(してはならないこと)を自動仕訳し、サイト上で商品とVMD(ウェブのイメージや商品連携)をわけられる。この戦略で、ロコンド(東京都/田中裕輔社長)などがブランドを集めて展開する、デパートメントプラットフォームタイプのECサイトと真っ向対決することになる。
いずれにおいても、まずは、LINEの重複機能を融合し、自然なかたちで通信サービスの「SoftBank」、「Y!mobile」とTポイントと連携させ消費者にお得感をだし、さらにPayPayという独自貨幣を回流させることで、顧客を流し込むことになるのだが、これまでは、こうした戦略がきわめて中途半端だった、あるいは、お互いが相乗効果を生み出さない関係にあった。そのため、楽天とAmazonに入り込むことができなかったわけだ。そこで今回、L I N E、ZOZOTOWNの顧客と自然なかたちでほかのサービスとを連携させてヤフー帝国(経済圏)へと顧客を流し込む。これが、同社の戦略である。
ユニクロでさえ、プラットフォーマーにはなれない
これに対して、Amazonは数兆円規模の研究開発費で「Amazon Echo」のようなサービスを開発し、米国はいうまでもなく日本でも先進的な消費者は自然言語で秘書に話しかけるようにAmazonで買物をしている。その音声認識技術は恐ろしいほどで、最近ではAmazon Echoと雑談までできるようになった。このように、天文学的な投資を行い帝国を築こうとするAmazonに、「貨幣」や「キラーコンテンツ」を武器に闘いを挑む楽天とZホールディングスというのが今、そして今後しばらく続く流通の最先端の構図だ。
そうした構図がいっそう強まるなかで注目すべきは、「ワイルドカード」ともいえるGoogleやコンビニエンスストアとのタッグだ。私は、楽天、Amazon、Zホールディングスはいずれ、Googleとの事業提携、あるいは、コンビニエンスストアのローソン(東京都/竹増貞信社長)やファミリーマート(東京都/澤田貴司社長)との事業連携・合併の道を選ぶだろうと思う。Googleは数々の技術連携を行い、広告モデルで勝負を挑んでいるがその成長もいずれは鈍化を迎えるだろうし、彼らの開発力があれば、世界中で使えるグローバル貨幣を開発することなど朝飯前だろう。そもそも広告というのは、物販やサービスを売るために行うものだ。ならばいっそ、物販と決済に直接参入することは十分考えられる。
また、銀行業に参入したローソン、独自決済を導入したファミリーマートのいずれも、空中戦と地上戦を複合させた強力な経済圏を単独で構築することは難しい。そうなると、生き残りのためにこれらの企業が連携し新経済エコシステムをつくる可能性は十分ある。
このように20年は、新しい産業再編が起こる。あれだけ無敵を誇ったファーストリテイリング(山口県)の柳井正会長兼社長が、第21回日経フォーラム「世界経営者会議」の講演で、プラットフォーマーの脅威が高まるなか、「彼らのインフラを利用していく」と述べたのが象徴的だった。
こうした世界規模の戦いのなかで、中堅企業が生き残るには、局地戦に徹して、独自の商品、ほかが真似できない商品を小さなエリアで展開させることが求められる。今からプラットフォームの陣取り合戦に参入することは、死を意味する。
※本特集は、『ダイヤモンド・チェーンストア』誌12月1日号特集から一部コンテンツ抜粋の上、加筆・再編集したものです
河合 拓
事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー ハンズオン型事業再生、再建を得意とし、これまでに国内外で再建に成功した企業は50社を超える。最近の事例では、マイナス100億円の赤字企業を一年で黒字化し、成長軌道に乗せるなど、アパレル企業再生の第一人者。執筆、講演も多く、代表作「ブランドで競争する技術」はアジアでも出版され知名度は高い。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)