今回は少し趣向を変えて、タクシーに乗りながら考えた短い話3本を掲載したい。収益改善策や人手不足対策、パパママストアの苦悩など、流通小売業が現在直面している問題とかぶるものが多い。あまり参考にはならないかもしれないが…
①タブレット広告を見たくない
仕事柄タクシーに乗ることが少なくない。
最近とくに憤りを抱くのは、後部左側座席の前にあるタブレットの存在だ。
乗車とともにスイッチが入り、まったく見たくない動画広告が流れる。昼間の時間帯は、外の明るさに紛れてタブレットの画面もそれほど目立たないが、夜間帯は光が容赦なく目に入ってくる。しかも、結構な大きさの音がこれでもかと耳を攻撃する。
止め方さえ知らなかった最初のうちは、目的地に到着するまで我慢していたが、画面上にオフスイッチがあることを知ってからは、乗車後に即、電源を切るようにしている。
ある運転手さんに聞いてみた。
私「このタブレットっていつから入っているんですか?」
運転手さん「1年くらい前からですかね。タブレットの価格がずいぶん落ちたようでウチの会社では全車両が導入していますよ」
私「うるさいとか眩しいとかクレームをつけてくるお客は多くないですか?」
運転手さん「そんな話題にはなりませんね。お客さんが初めてですよ」
私「これで運転手さんにも実入りがあるんですか?」
運転手さん「広告料はみんな会社が持っていっちゃうね」
私「強制的に広告を見せられるお客に値引きして欲しいですよね(笑)」
②需給バランス、崩れていないか?
現在、全国に約25万台。関東エリアに約8万5000台があるといわれるタクシー車両ではあるが、労働集約型のビジネスであり、流通業同様、人手不足は危機的状況だ。
事業会社の車庫にはクルマはあるけれども、それを操る運転手は慢性的に不足。結果として、マーケットの需給バランスが崩れているようだ。
そのせいかもしれない。バブル期の深夜ほどではないにしろ、タクシー待ちの行列に並ぶことが最近増えた気がする。
人手不足対策として、ある会社では、2年の雇用契約を前提に就職準備金50万円、紹介者への謝礼30万円を用意するなどの手を打った。
けれども、それでもなり手は皆無なのだという。
しかも運転手の高齢化は日に日に進んでおり、厚生労働省「賃金構造基本統計調査(平成22年)」によれば、この時点で平均年齢56.8歳、勤続年数は9.3年だ。
高齢社会が進展している日本で、タクシーは高齢者を運ぶ有力な移動手段とはいえなくなくなりそうだ。
代替手段として注目を集めるのは、海外では当たり前のように普及している配車サービスの「Uber(ウーバー)」や「Grab(グラブ)」だ。ところが、国土交通省は、「自家用車による運送サービスは白タク行為に当たる」として、導入には消極的だ。
既得権益を守ることは少なからず大切なことだが、もはや、配車サービスを導入しなければならないほど状況は逼迫しているような気がする。
③個人タクシーは投資を逡巡
さて、世の中はキャッシュレス決済の方向に急速に舵を切っている。
この流れに個人タクシーも抗えなくなってきた。
タクシー事業者が保有する車両にはクレジットカードやICカード対応読み取り機が装備されていることが多いが、個人タクシーはキャッシュオンリーということが一般的で、現金を持ちあわせていなければ乗れないこともでてきてしまう。
「個人タクシーさん、何とかしてよ」、と思わず言いたくなってしまうのだが、電子マネー対応機の導入費用は35万円にも上るという。
個人事業主の個人タクシー運転手が1か月分の給与相当分をそのために投資することはなかなかできないのが現状なのだという(なお、東京都個人タクシー協同組合は、PayPayと提携し、都内を中心に営業する東個協のタクシーに「PayPay」を導入することを発表している)。
タクシーにまつわる3つの話を紹介したが、これからこんな事態を端緒にして業界が大きく変わりそうな予感はする。