「だいたい、どこの業界も上位2、3社に集約される」――。ダイエー創業者の中内功氏はかつてこのように発言している。日本の流通業界は再編の繰り返しだった。食品スーパー、総合スーパーが台頭したのちに、カジュアル衣料専門店や家具インテリア専門店などカテゴリーキラーが出現。新たな業態が出現するたびにシェア争いは激化し、再編が起こった。次に待ち受けるのは勢力を拡大するEC勢が需要を“総取り”する時代かーー。
ZOZO買収に透けるヤフーのねらい
「ネット通販もついに、3極(楽天、アマゾンジャパン、ヤフー)を軸にした競争時代に突入する」
ヤフーによるZOZO(東京都)買収の一報に触れた大手スーパーの関係者はこうみる。破竹の勢いだったZOZOの業績に陰りが見え始めていたとはいえ、創業者で前社長の前澤友作氏がこんなに早く保有する株式を手放すことになろうとは業界関係者は想像していなかっただろう。
ヤフーはEC事業の拡大に本気だ。ヤフーが筆頭株主であるアスクル(東京都)の創業社長だった岩田彰一郎氏の社長再任反対に回ったのも、今回のZOZO買収とあわせ、ECの本格拡大という文脈でとらえるとわかりやすい。
アスクルのBtoC事業「ロハコ」の2019年5月期の売上高は前期比23.1%増の513億円と高い伸びを示しているものの、92億円の営業赤字を計上するなど、サービスがスタートして以来、赤字が続いている。「ヤフーが岩田社長の再任に反対したのも、業績が向上しないロハコ事業に業を煮やした結果だろう」(ある経営コンサルタント)との指摘も一理ある。
今回のZOZO買収も、なかなか軌道に乗せられていないアパレル販売の領域を、自力での成長をめざすよりも、先行するZOZOを買収した方が手っ取り早いと判断したのだろう。
リアル店舗とECの融合の先に、新たな再編か
経済産業省の調査によると、18年のネット通販の市場規模は前年比8.96%増の17兆9845億円と高い伸びを示している。物販系分野のEC化率は6.22%とまだ低いが漸増傾向にあり、今後上昇していくのは間違いない。
このEC化率がすぐに30%、40%に高まることはあり得ないが、確実に上昇していく過程で、EC企業が次に着目するのは実店舗だろう。
実際、その前哨戦は始まっている。EC大手の楽天(東京都)は近年、小売大手と相次いで提携している。昨年は西友(東京都)にはじまり、ビックカメラ(東京都)とも共同でECサイトを立ち上げており、物流面での協業もはじまっている。ホームセンター大手のコーナン商事(大阪府)ともポイントで協業するなど提携が相次ぐ。
アマゾンが米食品スーパー大手のホールフーズ・マーケットを買収したことでも明らかなように、ECにはどうしても克服できない課題がある。それは、商品を最終ユーザーに届ける「ラストワンマイル」であり、扱いが難しい生鮮食品だ。EC企業は今後、それぞれ得意分野を持つ企業との提携に動くとみられている。
国内に目を向けると、食品スーパー最大手のライフコーポレーション(大阪府)とアマゾンがタッグを組み、都内の一部地域でライフの店舗から生鮮食品や総菜などを宅配するサービスを開始している。続報は出ていないものの、昨年2月にはイオン(千葉県)とヤフー、ソフトバンクの3社が提携を検討しているとの報道もあった。
ラストワンマイルを埋める拠点としてリアル店舗に魅力を感じるEC企業が増えている。他方、EC企業が持つビッグデータを魅力に感じるリアル小売も多く、今後、協業が増えていくのは間違いないだろう。
流通業界におけるネットと実店舗の融合は始まったばかりだ。ヤフーによるZOZO買収はEC大手が激しい競争へ向かう狼煙とも考えられる。今後はEC企業を軸とした流通再編が進むのかーー。ECの競争激化が流通を再編へ駆り立てようとしている。