第68回 増加する百貨店のショッピングセンター化は「一時しのぎ」に過ぎない理由
「大手流通企業が百貨店部門をファンドに売却」「本店が閉鎖」など百貨店にとって逆風となる話題が続くが、1991年をピークに低迷が続く百貨店の生き残り策として最も採られる手法はショッピングセンター(SC)化である。要するに小売業から不動産賃貸業への転換である。では、この手法は将来に渡って有効なのか、今号では考えてみたい。

百貨店ビジネスの難しさ
先日、東京・立川市にある百貨店の「SC化」の記事を読んだところ、当該店舗の売上高は81億円、社員数は140人と記載されていた。不動産賃貸業であるSCは売上高10億円に対して1人の事務所員が必要と言われるため、この売上規模をSC経営にあてはめると10名足らずで運営される規模である。
しかし、百貨店は小売業である。そのため、商品の買い付け、仕入れ、陳列、在庫、販売、外商など多くの業務プロセスが発生し、各々スタッフを必要とする。
付加価値の高い商品を提供し、適正な売上高と粗利益高が確保できればそのコストも吸収できるが、この30年、スーツ、家具、眼鏡などこれまで高額なものとして認識されていたカテゴリーの価格が大きく低下した。この環境において多くの社員を必要とする百貨店は難しいビジネスだと常々感じている。
百貨店とSCの相違とは
百貨店とSCの最も異なる点は「リスクの取り方」にある。消化仕入れなど特殊な契約形態という違いはあるものの、端的に言えば、百貨店は「自らが販売者となり顧客と向き合う」商売だ。そして店頭に並ぶ商品の買い付けから仕入れ、陳列、在庫管理、販売員の雇用や内装投資に至るまで自らの責任として行う。場合によっては土地建物も自らで所有し、アセットリスクまでも内包する。

これに対して、SCは、商業用不動産の建設費を負担し、保有することで発生する空室リスクや地震など天災事変による棄損リスクを持つもののテナントの誘致により商品リスク、在庫リスク、雇用リスク、店舗内装リスクを外部化するビジネスである(図表1)。
百貨店はSCに比べて多くのリスクを内包化し、常に社会の環境変化による影響を多方面で受けやすい商売である
続きを読むには…
この記事は DCSオンライン会員(無料)、DCSオンライン+会員限定です。
会員登録後読むことができます。
DCSオンライン会員、DCSオンライン+会員の方はログインしてから閲覧ください。
商業施設の価値を再定義する「西山貴仁のショッピングセンター経営」 の新着記事
-
2025/12/01
第128回 少子高齢化時代におけるショッピングセンターのターゲット設定 -
2025/11/18
第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由 -
2025/10/31
第126回 SC運営の成否を決める顧客の滞在時間 “装置産業”としての役割とは何か -
2025/10/17
第125回 「駅ビル」が抱えるリスクを百貨店の歴史から考える -
2025/10/03
第124回 相次ぐフードホールの開業 日本で成功するためのカギとは -
2025/09/19
第123回 「営業時間統一」という常識打破に向け、SCに求められる対応とは
この連載の一覧はこちら [128記事]
関連記事ランキング
- 2025-11-07長野県内最大「イオンモール須坂」が開業! イオンスタイルでは非食品の“専門店化”に注力
- 2025-11-18第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由
- 2025-11-06「街ナカぐらし」に寄り添う!「イオンモール仙台上杉」の館づくりを解剖
- 2025-10-21実例に見る「危ない商業施設」の見分け方
- 2025-11-13知られざる四国の激戦地・愛媛県西条市 トライアル進出で環境急変か
- 2025-11-13イズミ、ハローズ、ダイレックス……中四国最大都市・広島市の視察の仕方
- 2025-11-09新潟県初の「そよら」がオープン イオンリテールの県下での存在感さらに大きく
- 2025-12-01第128回 少子高齢化時代におけるショッピングセンターのターゲット設定
- 2025-10-03「ニュウマン高輪」がデザインする100年先の生活価値とは
- 2013-12-02年間2ケタ以上のNSCを開業!地域密着の商業集積めざす=イオンタウン 大門 淳 社長





前の記事
