西日本小売の雄イズミ(広島県/山西泰明社長)は、総合スーパー(GMS)の“優等生”企業だ。2019年2月期の売上高営業利益率は5.1%と、GMS企業では群を抜く。中四国を中心とした強固なドミナント戦略、そして直営面積を減らす「テナントミックス」に早くから取り組んできたことが奏功している。しかし、ここにきて最大手イオン(千葉県/岡田元也社長)が、イズミと同じく中四国に地盤を持つフジ(愛媛県/山口普社長)と資本業務提携し、“イズミ包囲網”を築くなど競争環境は今後急速に変化していくと見られる。優等生GMSのイズミの次の一手とはーー。
イズミの強さを支えるテナントミックス戦略
「イズミさんは良いデベロッパーですよ」
ある専門店企業の幹部はイズミについてそう話す。この「良い」というのは、他の大手デベロッパーに比べてイズミは賃料を抑えられており、テナント構成が巧みであるからだという。
イズミが得意とするのは、直営の売場面積を減らしてテナントを多用するテナントミックス戦略だ。この“品揃え重視”の傾向は、競合の商業デベロッパーと比較すると顕著だ。
たとえばイズミが17年4月、オープンしたという大型ショッピングセンター(SC)の「LECT(レクト)」。同SCでは約3万9000㎡に売場面積に、150店の専門店が入居する。
これに対し、競合企業が運営する香川県にある某SCの売場面積は約4万2000㎡とレクトより3000㎡程度広いものの、専門店数は約130店。イズミの方が専門店を多く導入しており、品揃えにバラエティを出していることがわかる。
イズミの最新期(19年2月期)のテナント売上高は2386億円、同社の単体売上高6553億円の36.4%を占めている。
テナントと直営部分の融合がうまく進んでいることもあってか、19年2月期の既存店売上高は大手GMS各社が軒並み前期実績を大きく割ったなかで、対前期比0.6%減と微減にとどめている。
テナントミックスだけではない。中国、九州地区のドミナント構築が進んでいることもイズミの強みの1つだ。ドミナント化が進めば販促策の効果を高められるほか、物流面、採用面でも効率化が見込める。無理に勢力を拡大せず、リージョナルチェーンに徹してきたことが、イズミの現在の高収益体質を築いた一因になっている。
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優等生が目標を下方修正した理由とは
中計目標を下方修正、迫り来る“イズミ包囲網”
しかし、そんなイズミも今年4月、20年度(21年2月期)までの中期経営計画を大幅に見直した。3年間で40店を予定していた新規出店計画を15店とし、売上高目標は9000億円から8200億円、売上高営業利益率は6%から5.4%に下方修正した。
この理由として同社は「既存店売上高の成長率が鈍化している。とくに大型店の(売上)けん引力が弱まっている」とコメントしている。今後は、これまでの出店中心の戦略から、M&A(合併・買収)や既存店活性化、そして食品スーパー業態の確立に重点を置いた戦略に方向転換していくという。
もちろんイオンをはじめとした大手小売業や商業デベロッパーが展開する大型SCがイズミのドミナントエリアに開発され、競争が激しくなっていることとも無縁ではないだろう。
だがイズミも手をこまねいてるわけではない。18年4月、イズミはセブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)との業務提携を発表した。セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の供給、「イトーヨーカドー福山店」(広島県福山市)の継承などが提携の骨子だ。そしてこれに対抗するように、この発表から約半年が経過した10月、イズミと競合関係にある中四国地盤のフジとイオンが資本業務提携を結んだ。
イズミの強力な地盤だった中国、九州地区も競合他社に脅かされ始めている。「(福山店以外の)ヨーカドー店舗の継承など、イズミとセブン&アイはさらなる関係強化に踏み出すのではないか」と関係者の一部からは観測されている。
今週末6月29日には、イトーヨーカドーをリニューアルした「ゆめタウン福山」がついにオープンを迎える。セブン&アイとの関係深化は、イズミにとって成長のカギとなるか――。