売上の6割占める中国・日本で苦戦、円安…それでも最高益更新するユニクロ「4つの秘密」

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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ポイント④円安でも利益が増える!
為替に負けない体質はどうやって作られたか!?

 私は昨年、ファーストリテイリングの218月期決算において、「同社は円安でも為替差益が出る」という分析をした。

 アパレルはドメスティックだというのは大間違いで、ファーストリテイリングのように海外売上のほうが日本の売上より高い場合、円安は逆作用を起こす。

 その結果、2022年は年初より円安が続いたが、218月期に168億円だった金融収益・費用は、228月期は海外にある資産価値が為替要因により上昇し、1162億円も計上しているのだ。

 円高になれば、高いコスパで日本市場で儲け、円安になっても海外資産の相対価値向上を利食いして1000億円近い為替差益がでるわけだ。

 さて、同社は2年先まで為替予約をしていると説明した。これは、最後のQ&Aで会場からでた質問に、思わずファーストリテイリング側が回答したものであるが、為替予約を2-3年先までやるというのは考えずらい。なぜなら、今のように円高が進行すれば輸入為替で差益がでるが、仮に円安にふれれば大きな差損がでるからだ。私はこのやりとりは信じていない。
 それ以上に、注目すべきは物流で、「Air」(航空貨物便)を使った配送を増やす発言があちこちにでてきたことだ。一般的にAirは単品あたり50セント程度のアップチャージがかかり、例えばバングラデッシュから船で輸配送をする場合、フィリピンで積み替えが発生し納期が大きくおくれる。同社は、昨年言及した「素材備蓄」と「Air」を多様化することで、時間をキャッシュに換え「欲しいときに、欲しい商品を運ぶ」ことを目指しているのだと思われる。考えてもらいたい、P/L偏重主義からなるコスト削減と、店頭での欠品や納期遅れが引き起こすプロパー消化率の低下と、「Air」によるアップチャージの違いを。ZARAやシーインなど、グローバルプレイヤーはすべて「クーリエ」(Air)だ。一方多くの企業は、昔から続く常識を守り、大したコスト削減もできずに、店頭でのチャンスロスを逃すサプライチェーンマネジメントの基本が分かっていれば、ユニクロの「Air」宣言もよくわかる。

 ちなみに商社では、こういう長期的な為替予約は絶対に禁止されており、為替予約は必ず「都度予約」が原則だ。

 なお、流動資産としての期末在庫が増加しているようだが、同社は、「コロナが回復し、人流がもどってきたため、売上を期待しての在庫である」とあくまでも強気だった。毎年売上、あるいは、営業利益を更新し、為替やカントリーリスクを吸収するポートフォリオを組んで確実に過去最高益を更新しているユニクロ事業に死角はみえない。

  岡崎健CFOはじめ、同社には元戦略コンサルタントが山のようにいる一方、ほとんど感覚に頼った経営を行っているアパレルも多く、とてもファーストリテイリングには太刀打ちできないように見える。だが、私は同社と他社を分かつ決定的な違いは、もっと単純なところにあると感じている。

 通期で減収減益となったGUは不安要素なのか?

GUのロゴ
(時事通信社)

 最後に、ファーストリテイリングの中でユニクロと切っても、切り離せないジーユーについて述べたい。ジーユー事業は228月期、売上2460億円(同1.4%減)、営業利益166億円 (同16.4%減)と、減収減益となった。これについては、いろいろな説明がなされていたが、本質的には、私からみれば、ジーユーは国内だけで戦っているからではないかと思う。なぜ、あれほどのコスパが実現され、アジアで生産をしているのに、世界のファッションガリバーであるZARAやH&Mと世界戦をしないのか。何か事情があるのかもしれないが、もったいないと私は思う。ただ、マイナスの原因は、同社の上期、つまり、昨年の冬から春にかけてがほとんどで、3月の春からは大きく売上、営業利益が回復しているようだ。この傾向が本物であれば、ジーユー事業は来期、大きく成長するだろう。

  まとめよう。ファーストリテイリングの基幹ブランドユニクロはもはやアパレルビジネスとしては死角はない。同社の中国の回復、および、ジーユーの日本での回復が来期本物であれば、もはや同社の成長を止められるものはなく、ユニクロ世界一の快挙を聞く日は遠くないだろう。

 

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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