アングル:「買収」で注目、マイクロソフトと中国政府の距離感
[上海 10日 ロイター] – 中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)傘下の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業売却で、米マイクロソフトは最有力の買い手に浮上している。
こうした案件は、中国に対するマイクロソフトのこれまでの姿勢と整合的と言えるだろう。同社は中国で大きな存在を確立している。ここは、フェイスブックやグーグルなど他の米ハイテク大手とは違う。フェイスブックなどは、政府による締め付けの寄せ集めと化した中国の消費者市場をすっかり諦めたように見える。
マイクロソフトのブラッド・スミス社長は今年、中国での売上高は20億ドル(約2100億円)を超えると明らかにした。
マイクロソフトの中国とのこれまでの関わりをまとめた。
中国事業の展開
中国でのマイクロソフト従業員は約6000人で、拠点は上海と北京、蘇州にある。旗艦基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」は、中国で広く用いられている。ただし、売上高は海賊版の横行でずっと打撃を受けてきた。近年は中国のデータサービス会社の世紀互聯との提携を通じて、2013年に立ち上げたクラウドコンピューティング「アジュール」の営業を推進している。
中国のサイバーセキュリティーの法規定ではマイクロソフトはアジュールのソフトウエアやサービスの提供は制限される。そのため世紀互聯が系列のデータセンターを運営する形を取っている。ただ、アリババ・グループ・ホールディングスや百度(バイドゥ)、騰訊控股(テンセント)、華為技術(ファーウェイ)など国内勢が支配する業界では、弱小勢力にすぎない。
マイクロソフトは中国で検索エンジン「ビング」、ソーシャルネットワーク「リンクトイン」を運営するが、これもそれぞれ国内勢に比べると弱小だ。
マイクロソフトにとって最も重要な中国事業は紛れもなくマイクロソフト・リサーチ・アジア(MSRA)だ。人工知能(AI)分野でのリーダーだ。
MSRAは1998年創業で、有名な台湾系米国人科学者、李開復氏が支援した。同氏はその後、グーグルの中国部門トップに就いた。MSRAはバイトダンスやバイドゥ、小米科技(シャオミ)のほか中国の顔認証技術に関わる複数のユニコーン企業の幹部になった人物らを輩出している。
中国で自主検閲しているのか
中国でのビングとリンクトインは、世界のライバルと似ているように見えるが、マイクロソフトは、中国政府が機微と見なす検索結果やコンテンツを検閲している。
中国でリンクトインが事業を始めたのは14年で、その2年後にマイクロソフトに買収された。14年当時のジェフ・ウェイナー最高経営責任者(CEO)は、中国で企業が成長するには検閲は「必要だ」と述べていた。
19年にはリンクトインの検閲方針が、言論の自由を求める活動家らから批判を浴びた。中国の人権活動家の周鋒鎖氏が、中国で自分のプロフィルが閲覧できないと訴えたためだ。リンクトインは「ミスがあった」として閲覧可能に戻した。
マイクロソフトが19年に買収したソフトウエア開発サイト「ギットハブ」も中国からアクセスできる。ソースコードを管理共有する同サイトは、中国で活動家らが当局に検閲される前にコンテンツを保存するのに用いられてきた。
中国政府との摩擦
マイクロソフトは過去数十年間、中国でウィンドウズの海賊版の頻発に不満を持ち、時折訴訟を提起。相手が中国政府系企業であっても、懸念を解決するよう申し立ててきた。
最もよく知られた中国政府との対立は2014年で、当局はマイクロソフトのオフィス4カ所を家宅捜索し、独占禁止の調査の一環として契約や他の情報の入手を要求した。
同じ14年に、中国政府はすべての政府機関に対し、セキュリティーの問題を理由にウィンドウズ8の購入を禁じた。
マイクロソフトは15年に国有企業の中国電子科技と合弁事業を設立し、最終的に「中国政府版」ウィンドウズ10を発売した。
ゲイツ氏の関与
マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏は近年、中国についておおむね、好意的に語っている。昨年11月には習近平国家主席の妻の彭麗媛氏と公式に会談した。
ゲイツ氏は昨年末ごろには米政府によるファーウェイ規制を批判し、中国でウィンドウズが公式に容認されるきっかけとなったウィンドウズソースコードの中国政府との共有にも言及した。
ゲイツ氏は中国の新型コロナウイルス対応を褒め、これに対し、習氏は公式に謝意を示したことがある。ゲイツ氏と同氏の妻による慈善団体、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は中国の新型コロナ対策のため500万ドルを寄付している。
同財団は今でも中国で活動を続けている数少ない外国の慈善団体ないし非政府機関の一つ。中国では政府や研究機関と共同で、マラリアや結核などの病気に取り組んでいる。