5月ロイター企業調査:外国人雇用の拡大、「賃金は低下せず」との見方広がる
[東京 23日 ロイター] – 5月ロイター企業調査によると、新たな在留資格「特定技能」の下で外国人受け入れが拡大しても、日本全体の賃金水準は下がらない、との認識が企業の間で広がりをみせている。背景には、人手不足深刻化に加え、外国人から見た日本の賃金水準の低さ、同一労働同一賃金の浸透などがありそうだ。ただ、実際の採用はそれほど広がっておらず、住宅や日本語学習への支援はまだ整備されていない。
今回の調査期間は、5月8日─17日。調査票発送企業は478社、回答社数は220社程度。
<賃金水準下がらずが約8割、半年で意識変化>
今年4月から導入された新在留資格制度では、これまでの技能実習生に加えて一定の技能を持った外国人の雇用が可能となり、長期滞在と将来の永住への道筋も整備された。改正入国管理法では、外国人材の受け入れ拡大に向けて、さまざまな支援制度の整備や日本人と同等以上の報酬を求めている。
こうした法整備や人手不足の状況も影響して、特定技能外国人の受け入れが始まっても日本全体の賃金水準は「変わらない」との見方が全体の77%に上った。昨年12月調査では61%が変わらないと回答していた。
安い労働力としての採用は考えにくいとの見方から、賃金が「低下する」は16%にとどまり、半年前の29%から減少。逆に高度人材の受け入れもそれほど増えないとの見方から「上昇する」は6%にとどまり、こちらも半年前の11%から減少した。
従来と「変わらない」と見る企業では、特定技能外国人の報酬額を日本人と同等以上とする法律の趣旨を踏まえ「同一労働同一賃金への対応もあり、賃金水準はあまり変化しない」(機械など複数企業)と答えている。「そもそも日本の賃金水準は他の出稼ぎ先の国と比べて低く、外国人労働者が殺到するとは考えにくい」として影響は小さいとの声もある。「賃金水準を高くしないと日本に定着してくれない」(運輸)など、賃金上昇を見込む声もある。
もっとも「賃金水準は下がる」との見方をする企業からは、安い労働力としての認識は変わらない、との回答もある。「正規雇用以外の雇用形態による人件費抑制をもくろむケースが増加する」(輸送用機器)、「最低賃金法の適用除外であれば低下すると思われる」(小売)といった指摘が散見される。
<外国人採用検討は26%どまり、支援制度も未整備>
特定技能外国人の受け入れが始まっても、企業の採用の動きはまだそれほど広がっていない。
前向きに新たに外国人の採用を検討している企業は全体の26%にとどまった。「あまり採用する予定はない」が34%、採用を「全く検討していない」との回答も41%にのぼる。
7割以上がさほど関心を示していないのは「新制度が使えるニーズがない」(サービス)、「港湾運送事業では許可されていない」(運輸)など、新たな技能制度の対象が限られ、対象になっていない業務が多数あるためとみられる。
またさまざまな障害が意識されていることもある。採用に消極的な企業からは「言葉の壁があり過去に採用してトラブルが発生したことがある」(鉄鋼など複数の企業)との声もある。「教育コスト、品質リスク、歩留まりを考慮するとコスト高」(ゴム)といった見方もある。
採用予定の企業が少ないため、法律が求めている外国人労働者への支援制度を整備している企業も半数以下にとどまった。
採用を全く検討していない企業を除き、残り6割の企業に支援制度の整備状況について聞いた。整備予定が「ない」と回答は、住宅確保で52%、日本語学習で58%、生活情報取得に関しては59%にのぼった。
支援制度を整備している企業では「社宅の提供」(繊維)のほか、「アパート契約、日本語学校補助などを整備」(金属)している企業もある。
(中川泉 編集:石田仁志)