愛知のローカルスーパー、ヤマナカが「高質業態」を再定義 そのねらいと成果は
※この記事は、約3か月前にDCSオンライン+会員向けに公開した記事を、フリー記事として再公開しています。
愛知・岐阜・三重の東海3県で食品スーパー(SM)を展開するヤマナカ(愛知県/中野義久社長)は、高付加価値フォーマット「フランテ」のブランドを再定義し、「フランテ ロゼ」という新フォーマットを立ち上げた。
2023年の「フランテ ロゼ覚王山」(愛知県名古屋市:以下、覚王山店)のリニューアルオープンを皮切りに、現在3店舗を展開する。ヤマナカが同フォーマットによってめざすものとは何か。最新店舗「フランテ ロゼ白壁」(以下、白壁店)をレポートする。
苦境を打破へ「フランテ」を刷新
ヤマナカは現在、愛知県を中心に東海エリアでSM61店舗を展開する。東海地方は近年、食品を扱うドラッグストアやディスカウントストアをはじめとした異業態が出店を強めており、「食」をめぐる競争が激しさを増している。
そうした競合との価格競争の激化を背景に、ヤマナカの業績は苦戦が続いており、25年3月期の連結業績は売上高845億円(対前期比1.8%減)、営業利益5億円(同27.2%減)と減収減益に沈んでいる。
こうした環境下、ヤマナカは24年3月期から27年3月期までの中期経営計画のなかで「戦略3本柱」を掲げている。その1つである「既存ビジネスモデルの進化」の一環で、「フランテ」の強化を進めている。

「フランテ」は1997年に立ち上げた高質フォーマットである。フランス語の「Frais(フレ:新鮮)」「Enchanté(アンシャンテ:素敵)」を組み合わせた造語に由来し、他社との差別化を目的に、生鮮3品と総菜で高付加価値商品を揃えているのが特徴だ。
一方で、誕生から20年以上が経過し、立ち上げ当初からの生活者の価値観や食生活は大きく変化している。そこであらためてフォーマットを見直し、「フランテ」ブランドの刷新に向けた取り組みを開始。約1年の準備期間を経て「フランテ ロゼ」を新たに立ち上げ、既存の「フランテ」をリニューアルするかたちで23年10月に1号店の覚王山店、24年10月に2号店「フランテ ロゼ八事」(愛知県名古屋市)をそれぞれオープンした。
ヤマナカはこの「フランテ ロゼ」を単なる「フランテの改装版」にとどめず、商品・空間・サービスを三位一体で設計する新たな“顧客体験型フォーマット”として位置づけて改装を進めている。
「潤いの提供」を体現する新フォーマット
「フランテ ロゼ」の最大の特徴は、徹底した“体験価値”の追求である。ブランド名の「ロゼ」はフランス語で“しずく”を意味し、毎日の生活に潤いと豊かさをもたらす存在でありたいという姿勢を示している。
注目すべきは、商品の品揃えと訴求力だ。青果では契約農家から仕入れた旬の果実や希少品種を扱うほか、鮮魚ではブランド魚・産直魚介、精肉では等級指定和牛など、バイヤーこだわりの高質商品を並べる。
とくに店内調理の総菜においては、素材の選定から加工・盛り付けに至るまでの全工程を見直した。
また、売場に設置したデジタルサイネージを操作することで、売場には並んでいない希少価値の高いワインやフルーツなどの注文・予約購入ができる。
サービスにも注力しており、接客専任スタッフを配置し、買物客の問い合わせ対応や商品の提案などを強化。サービスカウンターも設置し、銘店の和洋菓子をショーケースに並べて販売している。さらに、ラッピング研修を受けたスタッフによるギフト対応も行っており、“百貨店クラス”の接客を志向している。
名古屋では、サポーレ(三重県/坂崎英樹社長)運営の「サポーレ」を筆頭に、高質な商品を強みとするローカルSMが複数店を展開している。「フランテ ロゼ」ではこうしたSMはもちろん、百貨店の食料品売場や高級外食店との競争も視野に入れている。

高質商品並ぶ生鮮売場
25年3月、ヤマナカは「フランテ ロゼ」3店舗目となる白壁店を、愛知県名古屋市東区に開業した。
旧白壁フランテから約500m西に移転オープンするかたちで出店しており、1階が駐車場、2階が売場のピロティタイプの店舗だ。売場面積は旧店舗の約220坪から約500坪へと倍増した。また、店舗の前を走る県道215号線はクルマ通りが多いため、駐車台数も21台から68台へと大幅に拡張。従来の課題であった駐車場不足を解消し、集客力向上を図っている。
2階に上がると、売場トップの青果から鮮魚、精肉、総菜・冷凍食品、ベーカリーと主通路が続く。青果では、売場最前面で宮崎県産の「マンゴー」(3580円:以下、税抜)や高知県産の「メロン」(3980円)と高級フルーツをラインアップ。また、愛知県豊橋市産の「麗ミニトマト」(100g258円)や栃木県産「アスパラ」などは、生産者の写真と商品へのこだわりをPOPで訴求する。

そのほか、有機栽培野菜コーナーも一定のスペースを確保し、取材時は「新たまねぎ」(1袋358円)、「じゃがいも」(同298円)などを並べていた。
続く鮮魚では、丸魚、サク、刺身、鮮魚総菜など幅広く商品を揃えている。取材時、「ちだい」(1尾498円)、「生するめいか」(同330円)、「あいなめ」(同980円)などの丸物をパック詰めで陳列していた。
また、いち押し商品の「生本まぐろ」はコーナー展開しており、「生本まぐろ中トロお刺身」(100g1580円)や「天然本まぐろ赤身お刺身平盛り」(980円)で鮮度と品質をアピールする。
鮮魚総菜では「銀だらの西京味噌焼き」(698円)、「サーモンとごろごろポテトサラダのチーズ焼き」(458円)など和洋さまざまなジャンルのメニューも揃える。さらに取材時は、「銀だらの粕炊き煮」(498円)を期間限定の「お試し価格」として値頃に提供していた。
ヤマナカで店舗統括ユニット第5グループ長を務める戸谷実義氏は「まずは商品を手に取ってもらい、その品質やおいしさを味わってもらいたい」とそのねらいを話す。
精肉では、牛・豚でこだわりのラインアップを展開している。牛では、A5ランクの「みかわ牛」や「山形牛」などの国産ブランド牛を中心に訴求。「国内産和牛シャトーブリアンステーキ用」(100g2098円)などの高級部位も揃える。豚では、埼玉県産「いも豚」や、宮崎・鹿児島県にまたがる霧島連山で育った「霧島黒豚」を大きく打ち出していた。
そのほか、無塩せきの加工肉など品質を追求した商品を豊富に展開している。

ソムリエこだわりのラインアップのワイン
総菜では、埼玉県産「いも豚」を使用した「肉汁溢れるいも豚ミルフィーユカツ」(100g278円)など、生鮮部門で仕入れたこだわりの素材を使った商品を品揃えする。そのほか、「骨なしスペアリブ」(800円)、「スペインオムレツ」(580円)、「アトランティックサーモンとベーコンのグラタン」(580円)など洋風メニューの品揃えがとくに充実していた。

さらに、総菜売場の隣ではパンを販売。地元有名ベーカリーの焼きたてパンを日替わりで売場に並べている。
また、冷凍食品の売場も広く確保している。売場では、スープ専門店スープストックトーキョー(東京都/工藤萌社長)の冷凍スープや、総菜専門店を展開するロック・フィールド(兵庫県/古塚孝志社長)の冷凍総菜ブランド「RFFF(ルフフフ)」など、高品質な商品を中心に展開していた。
そのほか、注目すべきはワインの品揃えだ。店頭に並ぶ商品と、売場にあるサイネージで予約可能な商品を合わせ、約280種類をラインアップする。一般的なSMにも見られるような5000円以下の価格帯のものから、1本10万円を超えるワインまで、ソムリエの資格を持つ社員がこだわって仕入れている。
また、ワイン売場に併設するかたちでチーズコーナーも展開し、セット購買を促す。
売場以外では、サービスカウンターで他店同様に和洋菓子の販売やギフト対応をするほか、白壁店限定でコーヒーマシンを導入し、サービスカウンターで挽きたてコーヒーを提供する。サービス強化の一環として、店長が発案したという。
レジでは、セルフレジを新たに設置した一方で、レジでの会計から袋詰めまで従業員が行う「サポートレジ」も併設。接客にこだわった店づくりが見られた。

●
白壁店では旧店の約1.2倍となる年間売上12億円を目標に掲げている。オープンから取材時までの期間で、客単価は計画を上回って推移しているという。
今後の新規出店については立地や商圏を見て検討するとしており、拡大よりも“完成度の追求”に軸足を置く。戸谷氏は「東海地区で一番活気のあるSMをめざす」と意気込み、ヤマナカの再成長に向け、高質SM「フランテ ロゼ」を地道に磨き込んでいくとしている。
店舗概要
| 開店日 | 2025 年3月5日 |
| 住所 | 愛知県名古屋市東区白壁3-19-25 |
| 営業時間 | 10:00~21:50(日曜は9:30~21:50) |
| 売場面積 | 約1560㎡ |
| アクセス | 名鉄瀬戸線「尼ヶ坂」駅から徒歩約10分 |
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