ユニクロ、ZARA、しまむら、ワークマンを比較!在庫はどこに置くのが正解か?
在庫は「利益」と「リスク」が背中合わせだから最速な販売消化が求められるが、流通過程から店頭まで「どこに置くか」で消化速度が大きく変わる。SPA型から仕入れ型まで、チェーンストア衣料品の在庫配置運用の「正解」を探ってみた。
前進配備か後方配備か
分散配備か集中配備か
在庫は倉庫に寝かせていては販売機会がなく、売場なりECサイトに並べてあげないと販売消化が望めないが、「前進配備・分散配備」に偏れば販売状況の変化に対応できず、「後方配備・集中配備」に偏れば販売機会が限定され機動対応に遅れをとってしまう。前進配備と後方配備、分散配備と集中配備のバランスは戦場での勝敗を左右するロジスティクスの基本であり、チェーンストアやECプラットフォーマーの物流戦略も同様だ。
チェーンストアは集中調達・分散配備を基本として来たが、鮮度が問われる生鮮食品や日配食品、総菜・弁当では地産地消のリージョナル分散調達が大勢となり、ECプラットフォーマーも宅配リードタイムと物流コストの圧縮を狙って後方集中配備から前進分散配備へ移行している。食品・飲料など品目変化が緩やかなコモディティ商材では前進分散配備を進めても、アパレルなど品目変化が速いトレンド商材は後方集中配備を変えていないが、小売チェーンがOMO(オンラインとオフラインの融合)で店舗の出荷・受け取り拠点化を進めれば、トレンド商材も前進分散配備を強いられるようになる。
OMOの究極はウォルマートやインディテックスが到達した店舗の出荷・受け取り拠点化という前進分散配備であることは言うまでもないが、実際の運用ではローカル出荷店舗(同時に在庫供給母店)の限定と受け取り店舗へのテザリング(在庫供給)という集中配備と分散配備の連携が図られている。これはOMOが先行した英国のアルゴス(ショールーム通販)が早くから確立していたロジスティクス※で、我が国のヨドバシカメラにも近似した運用が見られる。
※筆者の旧著『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』(2018年、商業界刊)に詳しい
チェーンストアは面の制圧というローカルドミナント戦略が基本だが、顧客接点(店舗)の分散配備による顧客の囲い込みと売上確保、在庫の前進集中配備による補給の機動性という、一見相反する仕組みを相乗させる必要がある。食品物流における総菜のリージョナルPC(プロセスセンター)とローカルデポ(TC、通貨型センター)も似たような役割を果たしているのではないか。
在庫の配置場所は最大4段階
ユニクロとZARAのケース
では、アパレル流通における具体的な在庫配備はどうなっているのだろうか。SPA(製造小売)型のケースとして「ユニクロ」と「ZARA」、仕入れ型のケースとして「しまむら」、VMI(納入業者在庫管理方式)のケースとして「ワークマン」(「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」は仕組みが異なる)を取り上げよう。
大衆価格と品質の両立を図る定番縦売り型SPAの「ユニクロ」は、低コストの海外(オフショア)産地での大ロット計画生産ゆえリードタイムが極めて長い。販売時期や品揃えの異なる各国市場に対応すべく生産地の出荷倉庫(消費地倉庫より賃料負担が格段に軽い)に貯め置き、各国市場の販売時期に合わせて消費地の倉庫(在庫型物流センター、DC)に移送する。各店舗の販売時期(地域で多少異なる)に合わせてDCから店舗に出荷するとともに補給を担い、店舗のバックヤードにも補給在庫を積んで、棚割り設計した色・サイズの揃う「元番地※」カセットを売場に配置する。定番継続縦売り型ゆえ「ユニクロ」は売場のほとんどを「元番地」カセットで編成し、「出前」は店頭の巨大テーブルやクロスジェンダー提案※などに限定される。
※「元番地」と「出前」・・・「元番地」は色・サイズが揃ってフェイシング管理する棚割り陳列、「出前」はそこから特定の狙いで切り出して訴求する打ち出し陳列で、アパレルの場合、トルソーとT字(2ウェイ)やショートシングルのコンパクトなものが多いが、テーブルを組み合わす大型のものもある。「出前」だから一定期間が過ぎれば残在庫を「元番地」に戻し、新たな「出前」で鮮度を訴求する
※クロスジェンダー提案・・・ユニクロではメンズ商品をウィメンズ売場に、ウィメンズ商品をメンズ売場に、T字やショートシングルで品番単位に持ち出してクロスジェンダー提案を行うことがある
シーズン初期は生産地出荷倉庫の在庫が過半を占めてもシーズンの進行とともに消費地倉庫に移るが、消費地在庫のうち店舗に40%、DCに60%、店舗在庫のうち売場に70%、バックヤードに30%ぐらいのバランスだと推察される(過去の開示データから)。生産地の出荷倉庫から売場の「元番地」まで実に4段階(「出前」を加えれば5段階)を経て販売されるわけで、売場に陳列されている在庫は生産量の4分の1程度ということになる。
欠品させないことが最優先される定番商品縦売り型ゆえ、在庫回転は2.85回(23年8月期ファーストリテイリング連結)とスローだが、それで高収益を確保するビジネスモデルが成立している。後述する「ZARA」は時間を買ってファストサプライを実現しているが、「ユニクロ」は完成度の高い定番商品で時間を超越する(持ち越しても販売できる)ビジネスなのだろう。
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