わさび離れ進むなかチューブわさびで連続売上増!万城食品のマーケティング戦略とは
かつてはすしや刺身に欠かせなかった「わさび」だが、いまや回転ずし店では“さび抜き”がスタンダードに。若者を中心に“わさび離れ”が進み、さらに加速しているように見える。しかし、わさび商品の老舗メーカー・万城食品(静岡県/米山一郎社長)ではそれでもチューブわさび商品に注力し、同商品カテゴリーで2年連続で売上増を記録している。そこには何か秘策があるのか。逆風を跳ね返すマーケティング戦略について、取締役東京本部長・経営企画室長の三代康雄氏に聞いた。
日本古来のスパイスを「何とかしたい」
わさび業界の動向は、今、どうなっているのか?「ここ10年ほどのトレンドを見ても、わさびを使わない人が増えている」とは万城食品 取締役東京本部長・経営企画室長の三代康雄氏。中でもその傾向が顕著なのが若年層だ。わさびの研究者として知られる岐阜大学の山根京子准教授が2018年に発表した『現代若者の辛味嗜好性』によると「トウガラシは好きでもワサビは嫌い」とする若者が高齢者と比べて多いという結果が出ている。また、わさびを提供する飲食店でも、回転ずしのようにお好みで使う方式が一般的になっている。「わさびのおいしさは食べる中で学習してわかる奥深いもの」(三代氏)であるにもかかわらず、その機会が失われつつあるのだ。さらには日本原産の本わさびの生産量自体も減っており、15年前と比較して約6割減少、生産農家の高齢化と跡継ぎ不足も課題となっているという。
消費、供給、生産、いずれの面でも逆境にさらされ、わさび業界は縮小傾向にある。しかし、それでもチューブわさびで2年連続で売上増を記録しているのが万城食品だ。1952年に前身となる米中商店を創業し、1972年より粉わさびを発売。その後、練りわさびや生おろしわさびなど、さまざまなわさび商品を開発・販売してきた食品メーカーである。すしや刺身のパックを購入すると付いてくる「小袋わさび」のシェアは約3割(同社調べ)と業界トップクラスの実績を誇っている。
売場にある「小袋わさび」は、すしや刺身のパックを取り扱う小売店がメーカーから購入し、「ご自由にお持ちください」と無料で提供されるのが一般的だ。しかし最近はレジ袋のように、サービスではなく有償にしているケースもまれに見られ、食品ロスやコスト削減の観点から提供自体を控えている店舗もある。市場として縮小傾向にあることは明らかである。それでも「私たちは70年にわたってわさびを取り扱ってきた。調味料なども手掛けているものの、まだまだ売上の多くはわさび商品。日本古来のスパイスということで、とくに国産本わさびを『何とかしたい』と思う気持ちが強い」と三代氏は話す。そこに業界に吹く逆風を跳ね返したヒントが隠されているようだ。