「2024年問題」で物流のひっ迫が予測されるなか、新たな取り組みとして関心の高まりを見せているのが、製・配・販の縦の連携による食品バリューチェーン最適化のためのプラットフォーム構想だ。
伊藤忠商事(東京都/石井敬太社長)と、需要予測型の自動発注システムで業界トップのシェアをもつシノプス(大阪府/南谷洋志社長)は2023年12月8日、「食品物流フォーラム」を開催した。経済産業省担当官の基調講演および、小売業3社(ハローズ、ウオロク、バローホールディングス)の取り組み事例が紹介された。
2024年問題解決には小売業の協力が必須(経済産業省)
「物流クライシスが我が国に迫っているが、どうにもならない問題ではない。積載効率を上げることができれば、何とかなる。自動運転まで待たなければならない、ということではない」。
経済産業省商務・サービスグループ消費・流通政策課長 物流企画室長(併)の中野剛志氏はこう語った。
24年には全業界で19年比14.2%(4.0億トン)の輸送能力が不足すると試算されている。農産・水産品業界に限れば32.5%。それだけ国民の口に入るべき食料が届かなくなるということだ。
このまま30年になると、輸送能力不足は34.1%にまで高まるという。「2024年問題」は実は「2024年“以降”問題」なのだ。
産業界全体で「物流がまずいぞ」という認識は高まってきている。
そこで22年9月、関係する3省(国土交通省、農林水産省、経済産業省)で、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を立ち上げ、発荷主(メーカーや卸)、着荷主(小売)、運送事業者に対し商慣行を変えてもらうという趣旨で議論を進めてきている。
また、官邸の主導により、24年3月、「物流の革新に関する関係閣僚会議」が設置された。
これらの流れのなかから、罰則規定を含む物流改善に関する法案が24年の通常国会に提出される方向で進んでいる。現在、法案の策定作業中で、とりわけ、納品までのリードタイムの確保、バースでの荷待ち時間の縮小にフォーカスを当てている。
リードタイムの確保は積載効率の向上につながる。バース予約システムを導入すれば原理的には荷待ち時間はなくなる。荷待ち・荷役の作業時間については、一定規模以上の事業者(大手3000から4000社を想定)に2時間以内のルール化、達成事業者には、努力目標として1時間以内といった判断基準を示す。
これら事業会社にはCLO(Chief LogisticsOfficer、物流管理担当役員)の設置を義務付けるという。
特売の実証実験でトラック削減を実現(ハローズ)
営業利益率、経常利益率5%以上を確保し、質的企業ナンバーワンをめざすハローズ。長期ビジョンとして「瀬戸内商勢圏180店舗3000億円構想」をかかげている。
専務取締役商品ライン本部長兼商品統括部長兼販売企画部管掌の髙橋正名氏は物流改善への取り組み、2024年問題への対応策についての考え方を明らかにした。
同社は15年からシノプス社の需要予測型自動発注「sinops」を導入。導入にあたり、ゴンドラ単位当たりの商品回転率を一定にする標準化に3年近くの時間をかけた。
髙橋氏は「ゴンドラごとに物の動きが平準化されていると、物流センターの出荷波動がなくなり、トラック配車の波動もなくなる。そうすると物流コストが一気に下がる」と語る。
19年での導入効果だが、売上は2%増、欠品件数25%減、売価変更・廃棄率15%減、発注作業時間70%削減を実現している。
2024年問題への対応としては「DeCMPF」の導入を進める。
店舗や物流センターの在庫データ、需要予測、発注勧告数を1週間前迄に、メーカー、ベンダー(卸)、ハローズで一気通貫に共有するというもの。これまで入手できていなかったデータを事前に把握することによりメーカーでは、原材料の調達コスト、製造コスト、保管コストなどの削減が期待でき、定番商品の実証実験からはトラック台数の削減、2割近い社内在庫の圧縮ができることもわかった。
特売はSMにとって重要な販促施策だが、メーカーは、特売開始2週間前までに在庫計画の策定が必要で、一方SMからの特売発注は1週間前が通例であり、そのため、メーカーでは過剰在庫や確定発注後の緊急対応が避けられない状況にあった。
それに対し、DeCM-PFの「特売LT長期化サービス」を活用し、2週間前に特売初回送り込み分と特売初週分の発注を確定、納品を進めていくと、特売品の追加発注、トラックの配車の削減ができることもわかってきた。
ある飲料(2SKU)の特売では、追加発注のためにトラック13台分の配車が必要だったものが、実証実験ではトラック0.2台分にまで削減された。
「今後は構成比で65%を占める定番商品も含め需要予測を使って発注する。そうすることによって、トータル的な2024年問題に対応できるのではないか」と髙橋氏は話す。
物流改革で在庫削減と積載率改善を実現(ウオロク)
ウオロクは新潟県に44店舗を展開。17年から需要予測型自動発注「sinops」を導入、現在、「店舗配送改革」を進めてきている。
業務改革部次長の八百板悟氏は「需要予測を活用した改革のあゆみ~物流2024年問題に向けて~」とする講演の中で同社の取り組み効果について語っている。
これまで同社の店舗配送は、生鮮の低温便が、前日12時発注締めで、6時、9時、13時の3便、グロサリー関係の常温便は当日12時締めで、16時便(19時便もあり)の体制だったが、低温2便・3便の積載率改善、常温4便のトラック運行便数の削減が課題になっていた。
「需要予測に基づいて常温品の発注リードタイムを「0日(当日)」から「1日」へ延ばせば、解決できる可能性がある」と考え、4便(常温商品)を、低温2便・3便のすき間へ混載するトライアルを進めてきた。
その結果、約10台/週・全店の車両削減(年間では500台の換算)につながり、2便、3便の積載率も改善した(2便が80%から95%、3便が60%から85%)。売場でも、常温品の店着時間が早まった分、日中の作業人員の有効活用につながっている。
同社ではさらなる改革として、DeCMPFを活用した卸在庫圧縮の実証実験に取り組んでいる。
シノプスと伊藤忠商事が開発した卸在庫が最適となる発注勧告値の算出を行うDeCM-Wによる確度の高い需要予測を用いて欠品を極小化しつつ回すという。このシステムで日本アクセスを対象に、23年3月からメーカー3社での実証実験を開始、納品充足率99.3%の高水準を維持しながら最大で8日間の在庫日数削減効果を、また23年9月以降はメーカー12社を追加し、全体で23%の在庫数削減効果をあげることができたという。
また、三菱食品との間でもDeCM-Wの導入が決まっている。
「SCM」から「DCM」へ在庫コントロールに注力(バローHD)
バローグループは、調達・製造、物流・加工(物流センター17拠点、加工工場11拠点)、小売・サービス(28社、約1300店舗)を展開している。今、販売起点からいろんな物事を設計し直し、流通小売業として、メーカー・卸の調達能力、商品開発力、情報収集力をセットしたモデルの確立をめざしている。
なかでも物流がキーになるべきだと考えており、バローホールディングス取締役社長 流通技術本部長の小池孝幸氏は「われわれの業界(流通小売)の現在の状況に限れば、小売主体でやるべき。物流はSCM(サプライチェーンマネジメント)よりDCM(デマンドチェーンマネジメント)、川下の小売が動かないと改革はできない」と語っている。
バローグループで大事にしている点として、需要予測や受発注における情報の同期性、小売・卸・メーカーが互いの資産(物流センターや配送網)の意義を検証することがある。
これらに関する直近での取り組みに、カテゴリー別フロントセンターの立ち上げ、グループ汎用物流、さらには、他社のものもいっしょに運べるようにしようという動きも始まっている。
同グループでは24年4月から中期計画が始動する。そのなかで在庫コントロールをメーンに据えており、その橋渡し役として、メーカー、卸、小売をつなぐDeCM-PFを活用していくという。
あるSM店舗において、トライアル的に在庫コントロールによる在庫削減を行っているが、在庫が17.3%減少し、売上が12.3%、粗利が1.1%増加するなど、生産性に関する指標すべてにおいて改善効果が確認できている。
また、DeCM-PFの取組としては、特売期間における需要波動抑制による物流改善にも着手。発注リードタイムの長期化(1週間前から2週間前へ)、納入数量の自動算出、三者間での情報連携など、DeCM-PF活用による実証実験を、23年9月からエンド企画、11月からはチラシ特売で取り組んでいる。
グループ内では、特売発注業務の効率化、バイヤーの生産性向上など、またメーカーにおいても、余剰在庫の削減、トラックの緊急手配の削減といった効果が出ており、今後、実証実験の対象特売企画を拡大し、24年4月から本格展開を予定している。