ツルハグループ DXで描くリテールの未来 ~顧客の購買体験を高めるデジタル戦略とデータ活用の最前線~
株式会社ツルハホールディングス
執行役員 経営戦略本部長 兼 情報システム本部長
小橋 義浩 氏
22年5月にはアプリ700万DL目指す
ツルハグループは、現在ツルハドラッグ、くすりの福太郎、杏林堂薬局など8つの屋号で北海道から九州・沖縄まで全国とタイの19店舗を加えて2459店舗(2021年11月15日現在)を展開している。
小売業界でDX・CXへの取り組みが加速している中で、ツルハグループではDXの第一歩として、デジタル接点の起点としてグループを挙げてアプリ導入を推進し、20年5月にグループ傘下となったドラッグイレブンを加えてグループ企業が8つのアプリを導入している。
それも開発期間は半年程度と急ピッチでプロジェクトを進めるなど、デジタルでのお客様接点拡大に努めている。導入から1年後の21年5月には当初目指した400万DLにわずかに及ばなかったが350万DLを達成。すでに400万DLの目標はクリアし、22年5月には700万DLを目指していく。カード会員を含めアクティブ会員はおよそ1200万人なので、その半分以上をアプリに誘導したい。
現在進行中なのが、化粧品台帳のデジタル化だ。創業以来、美容相談やカウンセリングをずっとやってきた。しかし、そのノウハウは店舗や担当者に帰属していて会社全体として受け継がれていない。それをデータ化し、ブランドの垣根を越えたお客様軸の台帳を作りたい。もちろんアプリとも連携させていく。
データ収集・活用の一環でビーコンやサイネージも導入
この美容相談に限らず、ドラッグストアでは店舗スタッフへの商品相談、薬剤師や登録販売者との健康相談、管理栄養士との食事相談など様々なタッチポイントがある。そこで売るための店舗から情報伝達するための店舗、お客様にとって情報収集の場所へ変化しなければならない。従来のようにお客様は新聞やテレビで情報を得るのではなく、SNSや有料メディアから情報を得る時代。小売店も顧客の購買行動をデータとして定量化し、分析し、店舗に買いに来るお客様に有益な情報を提供し購買につなげていくことが重要になる。
そのツールの1つとして導入したのがビーコン。来店したタイミングを検知して、お客様が棚の前に立った時などに情報をプッシュ送信する仕組みを導入した。今後、ビーコンを活用することで、カスタマー分析や滞在時間分析、時間帯別利用状況など、商品を買ったお客様、購入に至らなかったお客様を含め導線分析データの活用を計画している。
さらにサイネージもグループ全店への導入を開始した。売場送客率やお客様の認知を向上させ売上アップにつなげるのが目的。来店した時にすぐに目につく店頭と新商品PRなどで認知度アップに貢献するプロモーションスペースなどに設置するようにしている。突出した成功事例は多くはないが、今後たとえば米国小売業のクローガーのようにオウンドメディア中心に顧客接点のひとつとしてサイネージを活用するケースや、ウォルマートのように完全に広告媒体としてサイネージを位置付け、広告収入を稼ぐという方法も出てくるかもしれない。
ID・POSなど分散していたデータを一元管理
CX向上のベースとなる顧客データベースとして、TIDE(タイド=ツルハグループ ID・POS エンゲージメントデータベース)を構築した。全店のID・POSのデータを集約し、1to1マーケティングの第一歩を踏み出した。狙いは、お客様に昔のような買物の心地よさや利便性・専門性を提供すること、店舗には効率良い集客や販売サポートとなる施策の展開、取引先には顧客理解を深め販売促進につながる取り組みを進めてもらうことだ。
ID・POSのデータに加えアプリなどオウンドメディアのデータ、ビーコンデータ、LINEやクーポンの反応データなど分散したデータを一元管理し、お客様の買物行動をデータで可視化し分類することで、来店目的と購買実績を把握。それにより適切なタイミングでお客様に合わせたアプローチ、特典提示による次回来店誘導、時節に合った商品提案によるロイヤリティ向上を図るなど、お客様にとって「心地良い」を導き出す施策を自動的に実行できる仕組みを構築していく方針だ。
改正個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)など個人情報に関わる規制が強化されている。それに対応するためには今後、自社のお客様から収集したオウンドデータがますます重要になる。そうしたデータを活用することで、メーカーとの共創による商品やサービスの開発や売場づくり、お客様の購買促進につながる販促などを効果的に行うことができる。
もちろんデジタル化の中でECも重要だ。コロナ禍もあり消費者行動のオンラインシフトが定着した。オムニチャネルと言われて久しいが、別々に運営しているECとリアル店舗の連携は今後の課題として大きなテーマと考えている。