日本アクセス(東京都/佐々木淳一社長)の100%子会社で、小売業とメーカーのDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するD&Sソリューションズ(東京都/中村洋幸社長)。同社は「情報卸」事業を通じて、製・配・販のサプライチェーン全体でのDXに挑戦する。情報卸事業とはどのようなものか、中村洋幸社長に聞いた。
小売・メーカーのDXを支援
──まず情報卸事業について、どのようなものか教えてください。
中村 小売業様やメーカー様など、業種を超えた企業どうしをつなぎ、食品流通の情報プラットフォームをつくることで、製・配・販にかかわるサプライチェーン全体のDXを支援する事業です。
これまで国内流通業界ではDXの重要性が何年も前から指摘されながらも、なかなか進みませんでした。その原因の1つは、小売企業内にDXを推進するリソースが不足していることです。小売企業が単独でDXを推進するには、社内でエンジニアを採用したり、ITベンダーに高いコストを払ったりする必要がありますが、これでは費用対効果が合いません。情報卸事業では小売業様とメーカー様、I Tサービス事業者をつなぐことで、単独企業でできなかったDXのサポートをします。
たとえば、小売業様にとっては初期費用が不要なサブスクリプション型のデジタルマーケティングの支援を行います。こちらはすでに食品スーパー(SM)4社で導入が決まり、3社でサービスがリリースされました。
一方メーカー様は年間を通じてマーケティングに莫大なコストを支払っていますが、購入者の性別、年齢といった属性情報しか持っていません。情報卸によりメーカー様と小売業様を対等な立場でつなぐことで、小売企業との共同取り組みの承認のうえで、性別・年齢だけではなくより細かな分類や分析手法でID-POSを活用し、自社商品がどのような購買行動に基づいて購入されているのかを分析することができます。こちらもすでに数社で導入が決まっています。
阪急オアシスのデジタルマーケティング
──サービスがリリースされたSMでの反応はいかがですか。
中村 阪急オアシス(大阪府/並松誠社長)様では2020年12月に導入し、すでに成果が出始めています。
同社では、デジタルマーケティング支援の一環として「LINEミニアプリ」の活用を開始しました。阪急オアシス様では自社のオリジナルアプリもあるものの、主要顧客層である50代以上になかなかアプローチできていませんでした。40~74歳の利用者が多いLINEミニアプリを新たに販促手段として新聞の折り込みチラシと連携し活用することで、自社アプリなどの既存の販促でアプローチできていなかった消費者を呼び込むことに成功しました。
会員種別ごとの売上を分析したところ、開始2カ月でLINEミニアプリを通じて新たに獲得した売上高は1カ月当たり1億円以上で、粗利益額ベースだと3000万円以上となりました。これまで既存アプリ会員ではなかった新たな顧客層にアプローチできたため、結果がすぐに数字に表れました。
──今年4月には「実践リテールDX研究会」を発足し、D&Sソリューションズが事務局を担当となり、推進の中心的な役割を担います。
中村 小売企業がDXを進める際、相談相手がいない、他社と情報交換したいといった声を多く聞いていましたが、これまで小売企業、メーカーの実務担当者が集まる場というのはありませんでした。研究会では業種を超えた実務担当者が集まり、DXを実践する場にしたいと考えています。
──20年11月には需要予測・自動発注サービスを展開するシノプス(大阪府/南谷洋志社長)と包括的業務提携を発表されました。どのようなねらいがありますか。
中村 シノプスは「リアルタイム在庫機能」を始め、小売企業の在庫データ管理に強みのある企業です。そこに小売・メーカーをつなぐ情報卸が加わることで、小売企業の店頭提案の強化やメーカーのマーケティング強化に貢献したいと考えています。