アングル:テスラ台頭がもたらした米自動車業界「電動化元年」
[デトロイト 21日 ロイター] – 米自動車業界にとって2020年は、電動化へかじを切る決断を下した年となった。それを促したのは電気自動車(EV)メーカーのテスラとウォール街だ。
イーロン・マスク氏が立ち上げた当初は吹けば飛ぶような新興企業だったテスラの時価総額は、今や6000億ドル(約62兆580億円)を超え、世界の5大自動車メーカーの合計価値をしのぐ規模になるまでの成長を遂げた。その勢いが最高潮に達したのがS&P総合500種への採用を目前に控えた18日で、同社株は活況のうちに最高値を更新した。
来年に目を向けても、米自動車業界が電動化の取り組みを加速させるだろうと思わせる材料しか見当たらない。電動化は、フォード・モーターの「T型」導入に伴う量産化開始や、2009年のゼネラル・モーターズ(GM)経営破綻に並ぶような、時代の大きな節目と言える。
テスラの台頭と機を同じくして、物言う投資家(アクティビスト)などが企業に気候変動対策を迫る動きが一段と活発化したのも今年の特徴だった。実際、1世紀にわたって自動車業界に君臨してきた内燃エンジンについて、10年以内に退場すると結論を下した投資家が増えつつあることは明らかだ。
またロンドン、北京、カリフォルニア州など世界各地で、政治指導者が内燃エンジンだけを搭載した自動車を2030年までに段階的に廃止する方針を打ち出している。
米国、英国、ドイツ、フランス、日本などの国々で、数多くの人々が現在、内燃エンジンの生産に携わっている。しかし、温室効果ガス排出量を削減せよという圧力がある以上、内燃エンジンへの大規模な新規投資を正当化するのはもはや難しい。
米自動車業界の現状を激しく揺さぶった要因はほかにもある。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)により、既存メーカーは売上高と利益の見通しが狂い、電動化を進めるため手順を踏んで投資するはずだった資金が手に入らなくなった。一方、中国経済はパンデミックから急速に立ち直り、業界の投資を引き寄せる力をさらに強めている。
消費者も電動化を受け入れるのか
今年はついに、GMのバーラ最高経営責任者(CEO)など既存大手メーカーのトップが相次いでマスク氏にならい、EV向けバッテリーのコストを内燃エンジン車並みに抑えることに間もなく成功すると宣言する局面に入った。
とはいえ消費者が、特に米国でガソリン動力のピックアップトラックやSUV(スポーツタイプ多目的車)に別れを告げる態勢にあるかどうかはまだ分からない。
米国で最も売れている車は引き続き、ガソリンで走る大型のピックアップトラックだ。パンデミックで今年春に工場の操業停止を余儀なくされたデトロイト勢が業績を回復できたのは、こうした車への需要があったおかげだ。
ただ証券会社バースタインのアナリストチームは「2030年、内燃エンジンがバッテリー型EVに敗退」と題したリポートで、早ければ23年にも一番優れたEVとバッテリーのメーカーが、内燃エンジンと変わらない初期費用で済む幾つかのモデルを投入してきてもおかしくないとの見方を示している。
電動化の動きは、自動車をほぼデジタル機器へ変容させる取り組みをさらに前進させる側面もある。デジタル機器となった車が持つ価値の大半は、ディスプレー装備や自動運転システムなどに関係するソフトウエアがもたらすことになる。だからこそ老舗のダイムラーを含め、業界全体が競うようにプログラマーや人工知能(AI)の専門家を採用している。
以前であれば、自動車エンジニアリングの達成度を測る手段のひとつはエンジン馬力の評価だったが、現在は自動運転技術やバッテリーからの電流、車と外部のデータ通信を制御してくれるソフトウエアの能力がその代わりになっている。
テスラがスマートフォンによる無線通信で車のソフトウエアを更新するやり方は、かつては特異な存在だった。ところが今年、米国車のベストセラーであるフォードのピックアップトラック「F-150」も無線経由でソフトウエア更新できるように設計が変更されており、業界で主流の技術へと進化した。
パンデミックの影響と中国の重み
工場の稼働が絶好調な時期であれば、既存メーカーにとって内燃エンジン車からEVへわざわざ切り替えるにはコストがかさみ、従業員の間にも大きな混乱を招いただろう。しかしパンデミックの衝撃によって、メーカーが方針転換に費やせる資金や時間はかなり減ってしまった。
コンサルティング会社IHSマークイットは、世界の自動車生産が19年の水準を取り戻すのは23年になると予想。そうなると、19年並みの水準がずっと維持されたと仮定した場合に比べて、23年までの生産総数は2000万台少なくなる。
フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)との統合新会社を率いることになるPSAのタバレス最高経営責任者(CEO)は「ダーウィンの精神に沿うなら、最も機敏なものが生き残る」と語り、電動化加速の必要性を強調している。
そうした中で、パンデミックは、業界の将来を左右する中国の重要度も高めた。米国や欧州の政治家は中国批判の言動をしているものの、中国経済がいち早くパンデミックの痛手から回復したため、同国自動車市場に各社が投資する流れは強まっている。
その上、中国政府がガソリン車依存を減らそうとしているため、投資の方向もバッテリー型EVやハイブリッド車にならざるを得ない。設計・開発活動の中心も、名古屋や独ウォルフスブルク(フォルクスワーゲン=VWの本社所在地)、米デトロイトから中国の諸都市に移行しつつあり、テスラは中国に設計と研究の拠点を立ち上げると表明した。
ダイムラーのケレニウスCEOは10月のビデオ会見で、こうした状況を率直に表現した。「われわれは生産の足場に目を向け、どこに移すのが合理的か検討しなければならない。昨年われわれは中国で約70万台を販売したが、その次に大きな市場である米国への販売台数規模は32万-33万台だ」と話したのだ。