闇雲な賃金アップより 生産性向上への投資を優先したい=ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス

ダイヤモンド・リテイルメディア 流通マーケティング局
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まず取り組むべきは生産性の向上

 小売業はレジ業務、品出し、在庫管理、発注、店舗内外装整備、商品加工などなど細かな業務が必定であり、労働集約型産業の典型である。そのため昨今、社会問題となっている人手不足への対応は喫緊の課題であり、抜本的な対策が急がれる。

 人事的な対策では、兼業を認めるダブルワーキングのほか、学生や60歳以上の積極的な活用、外国人技能実習制度の活用、正社員の積極採用などを実践している企業が多い。

 特定産業分野に限り、外国人労働者の新在留資格制度が始まったが、残念ながら外食産業は認められても、小売業は特定産業分野から漏れてしまった。業界をあげて適用されるように政府に働きかけていく必要がある。

 ただ、売り手市場の中で、人を確保するために闇雲にコストをかけたり、従業員の給与を引き上げたりするだけでは単純に人件費の上昇すなわち販売管理費増を招くだけである。

 ここは逆に人手不足をいい契機ととらえたい。従来の業務や作業内容を見直し、これまでよりも少ない人時で対応できるようにすることや、ITを活用し、生産性をあげることを考えたいところだ。

 そして、将来的には製造小売化を図っていくことで抜本的なコスト構造改革に取り組んだり、従来とはまったく異なる新しいビジネスモデルにチャレンジしたい。

 現在の人手不足は、そこに向けてのいいきっかけになるような気がする。

 さて、業務・作業改革では、すでに営業時間を短縮したり、取扱商品数を削減したり、複数の店舗を1人の店長がカバーするスーパーインテンデント制、EDLP(エブリデー・ロー・プライス)政策への転換、マルチジョブ化、フロアレディマーチャンダイジングなど人時削減の取り組みが企業ごとに行われている。

セミセルフレジ導入で人件費が3分の2に改善

 小売業でもIT活用や自動化といった機械化が注目されている。

 すでに電子棚札、セルフ/セミセルフレジ、プロセスセンター、自動店舗、決済周りや物流センター内の改革などさまざまな生産性向上策が図られてきた。さらに店舗におけるRPA導入、自動発注・自動棚割作成といったこれからのテーマとなる技術開発も進んできた。

 日本において増えているのは、セルフ/セミセルフレジの導入だ。食品スーパーはセルフサービスだから、お客自身に決済してもらうことに違和感が少ないのだろう。たとえばセミセルフレジを導入したケースでは処理能力が導入前に比べて1.5倍に向上し、レジ業務の人件費が3分の2になった事例もある。米国では、自分でバーコードをスキャンする形態も普及している。

 生鮮食品の加工や包装、総菜の調理などを集中して行うプロセスセンターの設置も国内小売業の間で増えている。インストア加工の比率を低めることで、店舗従業員の削減や効率的な配置が可能になる。一括集中生産することでコストダウンを図り、低価格化と粗利率の改善を図ることもできる。

実質的に無人店舗を運営するトライアルカンパニー

18年12月にオープンした「トライアルQuick大野城店」。22時から翌朝5時までは基本的に無人運営を実現。

 機械化の中で注目されるのが、ITをフル活用した自動店舗だ。

 福岡県に本拠を構えるトライアルカンパニーは、「AI、IoT活用で第4次産業革命を起こす!」を標榜し、自動化に積極的にチャレンジしている。

 2018年に開業した「スーパーセンタートライアルアイランドシティ店」は、パナソニックとRemmoのIT・AI技術を導入。店内にスマートカメラ700台を設置している。うち100台を人の動きと消費行動の監視に利用し、600台を商品棚と商品動向の分析に活用している。また、Remmoと開発したスマートレジカート130台を導入。カートにセルフレジ機能とレコメンド機能を搭載し、赤外線スキャナーでバーコードをスキャンし登録するとともに商品情報からオススメ商品を提示する。決済は専用レーンでプリペイドカードを使うことで、従業員の労力を極小化している。

 さらに「トライアルQuick大野城店」では、24時間営業のうち22時から翌朝5時までは、商品補充や年齢確認のスタッフ1人を除き基本的に無人運営を実現した。

 コンビニエンスストア各社は、無人店舗の実証実験を盛んに行っている。ローソンは今年2月、「ローソンゲートシティ大崎アトリウム店」でRFID(電子タグ)の実証実験を行い、決済や在庫管理の自動化、ダイナミックプライシングなどに取り組んでいる。セブン-イレブンはNECとシステムを共同開発し、NECグループの入居する三田国際ビル内の店舗で、顔認証のキャッシュレス決済を導入。ファミリーマートも、横浜市内にある佐江戸店でパナソニックと共同でIoT、AI活用の次世代型コンビニの実験を行っている。

流通業界全体で高まるITへの投資

 こうしたIoT、AIなど新しい仕組みを導入するためには大きな投資を必要とする。投資とは新しい環境下で次の手を打つことであり、投資をしない企業は勝ち残れない。
 そして投資は経営戦略そのものである。人手不足を含めた環境の変化に対して、有効な策を繰り出していかなければ淘汰されていくだろう。

 現状の流通業界の投資の潮流は、出店からITへのウエートが高くなってきている。また、新技術導入やスキルを持つ人材を確保するため、オープン・イノベーションやリバースピッチも活発化するはずだ。

 ただ投資については、やはり採算重視が第一だ。スピード感を持って改革を推進することが非常に重要になる。

千田さん
ダイヤモンド・リテイルメディア
編集局局長
千田 直哉

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