小売、卸、メーカーの垣根を越えた“オールジャパン”でアマゾンに対抗 リテールAI研究会

2019/02/19 00:00
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ついで買いを誘発する売場づくりの実験

 リテールAI研究会では、これまで、どのような売場づくりで来店客の「ついで買い」を促すことができるかについて研究を重ねてきた。クラウド環境上のオープンソース(ソースコードを無償で公開し、誰でも利用できるようにしているソフトウエア)を活用することで、ついで買いを促進するにはどのような棚割りが最適かをAIに提案させるのである。

 たとえば、食品分科会では膨大なPOSデータをAIに読み込ませた結果、朝食用シリアルのある商品とメロンパンを隣り合わせにするとよい、という提案をしてきた。実際に両製品を同じ売場に並べるようにすると、それぞれの商品の売上が伸びたという。

 「シリアルとメロンパンという組み合わせは、経験の長いバイヤーでも一緒に置こうという発想はできない。AIならではの提案でついで買いを促進することで、売場全体の売上を伸ばすことができる。だから、ふだんはライバル同士のメーカーも“呉越同舟”で取り組むことができる」(田中氏)。

 また、福岡県田川市の「スーパーセンタートライアル田川店」では、「協調フィルタリング」を活用したトイレタリー用品の棚割りの実験も行った。協調フィルタリングとは、多くのユーザーの嗜好性を分析し、あるユーザーと類似したユーザー情報から推論を行い、レコメンドする技術のことだ。実験には、卸売企業1社と日用品メーカー5社が参加。20代女性をターゲットに、「ニオイケア」をテーマに、オーラルケアやボディーソープ、生理用品、消臭剤などのカテゴリー商材をAIの提案に基づき、クロスMDで売場づくりを行った。その結果、田川店でそれぞれのカテゴリーの商品は1~5割ほど売上が伸びるという成果も出た。

9月から経産省と連携、オールジャパンでAI推進

 リテールAI研究会の技術アドバイザーを務めるのは、“リテールAI研究会の天才”こと、今村修一郎氏。日用品メーカーの社員として第一線で業務をこなしながら、同時にリテールAIの推進など、多くの課外活動にも取り組むエンジニアだ。今村氏は「アマゾン、グーグルに負けないスピードが大事。放っておいても数年後には彼らがやってしまうので、その前にわれわれがリアル店舗で先行者利益をとる」とリテールAI推進のスピード感の重要性を強調する。実際、各分科会での実験デザインやプログラムなどのほとんどを今村氏が担当した。

 また、今年9月からリテールAI研究会は経済産業省とも連携し、流通業へのAI活用を推し進める。「ひとことでAIと言っても、いろいろなレベルがある。セルフレジや自動発注での活用から無人店舗運営まで、人のかかわり方の度合いも違ってくる。そういうレベルの違いについて基準を設けて、分類することなどを通じて、リテールAIの普及に貢献したい」(田中氏)。

 これまで流通業はAIを含めたデジタル活用がほかの産業に比べて遅れているといわれてきた。リテールAI研究会は、“オールジャパン”で業種を越えた企業が参加し、オープンイノベーションでAI活用推進に取り組むことで、リアル店舗の持つ魅力を最大限引き上げようとしている。

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