小売、卸、メーカーの垣根を越えた“オールジャパン”でアマゾンに対抗 リテールAI研究会

2019/02/19 00:00

リテールAI研究会

リアル店舗でどのようにAIを活用できるかを研究するリテールAI研究会(東京都/田中雄策代表理事)。2017年5月に発足した同研究会には、現在、小売、卸、メーカーなど、業種の垣根を越えた企業が約150社加盟する。棚割り、品揃えなどの実験ではすでにいくつか成果も上がっているという。

最大の特徴はオープンイノベーション

 

 リテールAI研究会はAIカメラやセンサーを駆使した無人店舗「Amazon Go」(アマゾンゴー)の構想が発表されたり、米グーグル(Google)子会社ディープマインド(Deep Mind)のAI「アルファ碁」(Alpha Go)がプロ棋士を打ち破るなど、“AIブーム”を背景に、2017年5月に発足した。

 

 小売、卸、メーカーなど、業種の垣根を越えた企業が参加する独立した研究会で、AIをリアル店舗でどう活用するかについてさまざまな実験、勉強会を行っている。会員企業は、研究データを共有するだけでなく、店頭実験やAI活用のための勉強会などに参加することができる。現在、約150社が参加しており、うち、店頭実験まで参加できる正会員企業は約50社ある。

 

リテールAI研究会の田中雄策代表理事
リテールAI研究会の田中雄策代表理事

 「これまでもこういう研究会の構想は何度もあったが、盛り上がらないまま立ち消えていった。今は米アマゾン(Amazon. com)や中国アリババ(阿里巴巴集団)などEC企業が躍進を続けるなか、小売業は変革の必要に迫られるようになった。メーカー、卸も巻き込み、“オールジャパン”でリアル店舗を盛り上げていく必要がある」と田中雄策代表理事は研究会設立の経緯を振り返る。

 

 最大の特徴は、実験で得た結果やノウハウを参加者全員で共有する「オープンイノベーション」にある。メーカーや卸など、ふだんは同業他社としてシェア獲得を巡り、しのぎを削り合っている企業どうしが同研究会では手を取り合い、互いに得た知見を共有しているのだ。

 

 実際、店頭売場を活用した実験は、日雑分科会と食品分科会に分かれて、それぞれで複数の企業が共同で実験を行う。実験売場は現在、小売業の会員企業であるトライアルカンパニー(福岡県/石橋亮太社長)の一部店舗の売場を活用しているが、実験売場を提供してくれるほかの小売企業の参加も募集している。

リテールAI研究会
リテールAI研究会では、店頭実験や研究データの共有のほか、定期的な勉強会や海外流通視察ツアーも行っている

ついで買いを誘発する売場づくりの実験

 

 リテールAI研究会では、これまで、どのような売場づくりで来店客の「ついで買い」を促すことができるかについて研究を重ねてきた。クラウド環境上のオープンソース(ソースコードを無償で公開し、誰でも利用できるようにしているソフトウエア)を活用することで、ついで買いを促進するにはどのような棚割りが最適かをAIに提案させるのである。

 

 たとえば、食品分科会では膨大なPOSデータをAIに読み込ませた結果、朝食用シリアルのある商品とメロンパンを隣り合わせにするとよい、という提案をしてきた。実際に両製品を同じ売場に並べるようにすると、それぞれの商品の売上が伸びたという。

 

 「シリアルとメロンパンという組み合わせは、経験の長いバイヤーでも一緒に置こうという発想はできない。AIならではの提案でついで買いを促進することで、売場全体の売上を伸ばすことができる。だから、ふだんはライバル同士のメーカーも“呉越同舟”で取り組むことができる」(田中氏)。

 

 また、福岡県田川市の「スーパーセンタートライアル田川店」では、「協調フィルタリング」を活用したトイレタリー用品の棚割りの実験も行った。協調フィルタリングとは、多くのユーザーの嗜好性を分析し、あるユーザーと類似したユーザー情報から推論を行い、レコメンドする技術のことだ。実験には、卸売企業1社と日用品メーカー5社が参加。20代女性をターゲットに、「ニオイケア」をテーマに、オーラルケアやボディーソープ、生理用品、消臭剤などのカテゴリー商材をAIの提案に基づき、クロスMDで売場づくりを行った。その結果、田川店でそれぞれのカテゴリーの商品は1~5割ほど売上が伸びるという成果も出た。

9月から経産省と連携、オールジャパンでAI推進

 

 リテールAI研究会の技術アドバイザーを務めるのは、“リテールAI研究会の天才”こと、今村修一郎氏。日用品メーカーの社員として第一線で業務をこなしながら、同時にリテールAIの推進など、多くの課外活動にも取り組むエンジニアだ。今村氏は「アマゾン、グーグルに負けないスピードが大事。放っておいても数年後には彼らがやってしまうので、その前にわれわれがリアル店舗で先行者利益をとる」とリテールAI推進のスピード感の重要性を強調する。実際、各分科会での実験デザインやプログラムなどのほとんどを今村氏が担当した。

 

 また、今年9月からリテールAI研究会は経済産業省とも連携し、流通業へのAI活用を推し進める。「ひとことでAIと言っても、いろいろなレベルがある。セルフレジや自動発注での活用から無人店舗運営まで、人のかかわり方の度合いも違ってくる。そういうレベルの違いについて基準を設けて、分類することなどを通じて、リテールAIの普及に貢献したい」(田中氏)。

 

 これまで流通業はAIを含めたデジタル活用がほかの産業に比べて遅れているといわれてきた。リテールAI研究会は、“オールジャパン”で業種を越えた企業が参加し、オープンイノベーションでAI活用推進に取り組むことで、リアル店舗の持つ魅力を最大限引き上げようとしている。

 


[インタビュー]“天才エンジニア”に聞く! AIは小売業をどう変えるか?
リテールAI研究会技術アドバイザー 今村修一郎

 

リテールAI研究会技術アドバイザー 今村修一郎
リテールAI研究会技術アドバイザー 今村修一郎

──いつ頃AIに興味を持ち始めましたか。

 

今村 4~5年前に機械学習が盛り上がってきたときに興味を持ち、独学で勉強を始めました。初めは、1~10までの数字を画像で認識するために、28×28の576ピクセル(コンピュータが読み込む画像のデータ単位)を使うところから始めました。この画像認識は、スーパーのチラシのパターン分析などで初めて活用しました。

 

──リテールAI研究会との関わりはいつからですか。

 

今村 2017年9月からです。勤務先のメーカーがリテールAI研究会と関わっており、前任担当者から引き継いだことがきっかけです。スピードを持って進めたいと思い、メーカーの一社員というより、研究会のメンバーとして動きたい、と思っていたところ、技術アドバイザーという役割をいただきました。同研究会では、各分科会の実験の設計やAIプログラムをつくりました。店頭を使った実験では実際に売上も上がりましたし、やっていて楽しかったです。

 

──AI活用の実験を進めるうえでどういったことを重視されましたか。

 

今村 マネタイズとスピードです。マネタイズについては、画像認識の部分は工夫が必要ですが、レコメンド機能を使った棚割り提案などは簡単です。売場全体の売上も上がるし、メーカーのプロモーションにもつながるからです。また、初期導入コストが安いことも特徴です。ほとんどクラウド上でオープンソース化されているからです。レコメンドエンジンなどは「Microsoft Azure」を使えば、1時間当たり数十円しかかかりません。しかも、ほとんどチューニングする必要もありません。

 

 スピードについてですが、初期導入コストの安さの裏返しで、参入障壁が低い分、誰でも簡単に参加できます。ですから、スピード感を持って進めていかないと、どんどん追い抜かされてしまいます。

 

──初期コストが低いにもかかわらず、AIを実践で活用している企業はまだ多くありません。どのような要因があると思いますか。

 

今村 いろいろな業界を見てきましたが、メーカー、小売業はとくにAI活用では後れを取っていると思います。後塵を拝すようになった理由は、今あるビジネスモデルを破壊するのが怖いからではないでしょうか。本格的にAIを活用するようになると、大部分の人が不要になります。労働集約産業である小売業はその部分で変わりにくいのかもしれません。

 

──オープンソースで初期コストが低いとはいえ、AI がわかる人材が必要ではないでしょうか。

 

今村 はい。今、人材育成が喫緊の課題だと思っています。最近のAIブームで、メーカーでは技術がわかる人を育成しようという動きが活発化しています。

 

 小売業はAI活用が遅れてきた分、普及し始めると一気に変わるはずです。われわれがやらなくても、放っておけば数年後にはグーグル、アマゾンがすべて変えてしまいます。リアル店舗を持っているという強みを生かして、スピード感を持って変えていく必要があります。

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