若年層の取り込みに成功! イオンリテールの「住居余暇改革」の全貌

取材・文:小笠原 玲 (ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者)

売場面積縮小も売上高は増加

 この成功をもとに、同様のモデルを導入してリニューアルしたのが相模原店である。売場面積は794坪で、改装に当たって約24%縮小したものの、お客と商品との距離が近づくように什器の高さや通路幅を調整することで、SKU数は5%減にとどめている。

 同売場は大日店と同様に、ザッカラ、スタグラフィ、イオンモバイル、デジタルワールド、ホームコーディの5つの専門店で構成する。専門店化して住居と余暇のカラーをはっきりとさせることで、ホームファッション寄りの「暮らしの品の売場」だった従来のイメージを刷新。わくわくする品揃えや演出で、幅広い年代のお客が買物を楽しめる売場に進化させた。

 イオンリテール執行役員で住居余暇本部長を務める服部将允氏は「(1階に住居余暇を配置した)大日店と異なり、相模原店は食品の上層階に住居余暇が位置する。静かな売場にお客は来ない。とくに余暇をにぎやかでインパクトのある売場にすることで、むしろ上層階からお客を呼び込んでいこうと考えた」と話す。

スタグラフィ
スタグラフィでは壁面にバルーンなどの飾り付けを施すほか、回転式のPOPを天井からぶら下げ、遊び心ある演出を取り入れる。文房具は実用品から、キャラクター文具や韓国文具といった嗜好品まで揃える

 主要な売場を見ていくと、ザッカラではプラモデルやパズル、クラフトといったホビーにフォーカスする。プラモデルやコレクショントイなどは、ライトアップされた透明のショーケースに展示して見せ方を工夫している。

 スタグラフィは、文具や雑貨、パーティーグッズなどを揃える。文具は実用品だけでなく、キャラクター文具や韓国文具などの若年層受けを意識した嗜好品もラインアップする。デジタルワールドはスマホパーツや生活家電などを揃える。とくに、トースターや炊飯器など、買ってすぐに持ち帰れる小型の家電を増やした。

プラモデルコーナー
プラモデルやコレクショントイは、透明のショーケースの中に商品を並べて展示。ライトアップさせるなど見せ方に工夫を凝らし、実際の商品を目で見て楽しめる売場になっている

 ホームコーディでは、寝具やインテリア用品、生活用品を扱う。新たな取り組みとして、「ディズニー」とのコラボ商品をコーナー化。また、プライベートブランド(PB)の認知向上をめざし、とくにボトルとタオルは独立させるかたちで売場を展開する。

 イオンモバイルは大手通信社から格安スマホまで扱い、乗り換えだけでなく設定サポートの相談も受け付けている。

PBのボトルとタオルコーナー
PBの認知向上をめざし、イオンリテールがとくに押し出すのがボトルとタオルだ。それぞれ独立したコーナーを設けて販売を強化。タオルは、お客の目に触れやすいエレベーター前に売場を設置している

 改装に当たり、店舗の運営体制も見直した。従業員は従来の人数を維持しつつ、接客により特化させる。とくに白物・黒物の家電や携帯電話、リフォーム、寝具といった商品はこれまで以上に接客を強化する。そのほか、セルフレジを導入して、スタッフの業務効率化を図っている。

 こうした取り組みの結果、売場面積を縮小しながらも、オープン以降、店舗全体の売上高は伸長している。また、注目すべきは、客層・年齢層が大きく変化した点である。

 服部氏は「これまで住居余暇売場への若いお客さまの来店はほぼなかったが、改装後は平日夕方に学生が買物に来たり、土日にはファミリー層の姿が見られる。従来とは異なる層の集客につながっていることは、数字以上の成果だ」と、手ごたえを語った。

新モデルの拡大、今後さらに加速

 イオンスタイルは「ホーム&エンターテインメント導入モデル」を、今後全国の店舗に展開していく方針だ。500坪以上の大型店では、同モデルをそのまま適用し、順次拡大していく。相模原店に続き、4月18日には「イオン与野店」(埼玉県さいたま市)がリニューアルオープン。

 25年度中には、このほか3店舗の展開を予定している。一方、500坪未満の小型店については、ホームコーディを軸として、それ以外は売場面積に応じてホビーや文具など一部カテゴリーを柔軟に組み合わせる形で導入を進めていく。

 服部氏は「モール型で天井が低く、空間演出が難しい相模原店は、リニューアルの難易度が最も高かった店舗だ。同店が成功すれば、ホーム&エンターテインメントのモデルは全国のイオンスタイルの店舗に応用できる」と自信をのぞかせた。

裁縫売場
裁縫売場は、はやりの「推し活」を意識した商品を揃える。取材時は、エンド部分で、目や髪型など専用パーツを自由に組み合わせて好きなキャラクターのぬいぐるみがつくれる「推しぬい」グッズを販売
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取材・文

小笠原 玲 / ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者

早稲田大学文学部(ドイツ哲学専攻)を卒業後、教育系の編集プロダクションで国語の入試問題の制作を担当。2024年、ダイヤモンド・リテイルメディアに入社。

休日の大半を台所で過ごすほど、無類の料理好き。得意な料理は、出汁巻き卵と切り干し大根の煮物。料理研究家の土井善晴氏を尊敬している。

趣味は、ミニシアターで映画をみること。音の大きな映画が苦手で、日常を切り取ったような変哲のない映画やドキュメンタリー映画を好む。見た作品のリーフレットを持ち帰り、コレクションしている。

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